2022年4月15日金曜日

Extra 330LT Ferry Flight

3月。愛機Pitts Special S-2Sはまだ整備中です。

人に与えられるのは1日24時間。日常生活を維持すると、独り身とはいえ、実際に作業に費やせる時間は7-8時間が限界でしょう。食事と睡眠をとり、部屋の掃除や洗濯をし、適度な運動も欠かさず、そして外部からの依頼もこなすと時間はすぐに過ぎていきます。

夏時間になり日没が遅くなるこの時期、つい遅くまで作業したくなるものですが、それを続けると生活が徐々にずれていきます。やはり規則正しい生活は大切です。






ある日、知人からExtra 330LTのフェリーフライトの依頼がありました。こうして曲技飛行仲間を支援することも私の活動の1つ。もちろんです、喜んで参加します。




Etihad Airways訓練所所属のExtra 330LT。2016年3月、UAE(アラブ首長国連邦)アルアインにて。


Extra 330LTは曲技飛行機としては異色の存在です。複座型の曲技飛行機、Extra 330LXの主翼翼型を非対称翼に変更。エルロンを小型化して、扱いやすいロールレートに。燃料搭載量を増やし航続時間を延長させ。通常はこのような系統の飛行機は、曲技飛行の性能を極限まで求めて設計されますが、Extra 330LTは曲技飛行性能を多少削減し、巡航飛行性能を向上させた型式です。

「そのような中途半端な飛行機に何の意味が?」という意見も聞かれますが、曲技飛行性能と巡航性能を両立させた、すばらしい飛行機だと私は思います。充実した装備、快適なコックピット、速い巡航速度、長い航続距離。そして非対称翼型の効果の一つなのでしょうか、意外なことにタンブル系の飛行に関しては他のExtra各種以上に得意です。もし将来私がMonoplaneで飛行する選択があるなら、この飛行機を選びます。

Certifiedの複座機ですから飛行訓練も可能です。日本の飛行訓練事業者の皆さま、この飛行機を導入して、UPRT(Upset Prevention and Recovery Training)を開設してはいかがでしょうか。シラバスの紹介と訓練指導員の育成を請け負います。ぜひご検討ください。


Exra 300LTの情報はこちらへ https://www.extraaircraft.com/330LT.php



SFOから飛行機を3つ乗り継いで、ルイジアナ州ラフィアッテに到着。

おやすみなさい。




Extra 330LT


翌朝。Extra 330LTを確認します。Aspen社製のアビオニクスの使い方がよく判りませんが、飛びながら試してみます。風が強くなる予報が出ているものの、天候はVMC。大丈夫でしょう。



目的地はワシントン州サンファン島のフライデイハーバー飛行場(KFHR)です。


ルイジアナ州オプロウサス飛行場(KOPL)から、直線距離にして1773NM、約3,283㎞。コロラド州やワイオミング州あたりは悪天候ですので、実際の飛行経路はアリゾナ州やネバダ州を通るルートになります。



燃料を確認して、ENG Oilも追加して、荷物を積んで。出発!




燃料消費量を確認するため、最初のLegは余裕をもって、2時間程度の飛行です。


回転数は2,450 RPM、MAP(Manifold Absolute Pressure、吸気圧力)は21.0 in-Hgとすると、出力は70%。EGT(Exhaust Gas Temperature、排気温度)は余裕を与えて120度FほどROP(Rich of Peak、EGTの限界数値となる数値からRich側)にすると、FF(Fuel Flow、燃料流量)は14.8 GPHに落ち着きました。

この数値の精度を確認して、今後の長距離飛行の計画を立てます。Usable Fuel(使用可能な燃料搭載量)は、Main/Acro 17.7 Gallons+Wing 37.5 Gallons、Totalで55.2 Gallonsですから、計算上は、30分の予備燃料を残しても3時間以上の飛行が可能です。

10,500 ft MSLという高度の影響もあるのでしょうが、この設定でTAS(True Air Speed、真対気速度)は185 KTSになりました。すばらしい!Pitts S-2Sでは同程度の出力設定で155 KTASくらいですから、羨ましい巡航性能です。



テキサス州ミネラルウェルス飛行場(KMWL)。補給した燃料から計算すると、燃料消費量の表示は精確です。次は少し距離を伸ばしてみます。



コントロールドバーン?(火事防止に予め草を燃やすこと)


この日はテキサス州からニューメキシコ州にかけて強風注意報が出ていました。砂嵐でIMC(計器飛行対象となる気象状況)になるところも多く、出発前に飛行ルートを変更しました。



この高度まで砂塵が昇ってきているようです。



地平線のかなたに山が見えてきました。あの山の西側がニューメキシコ州アルバカーキ―です。目的地のダブルイーグルII(KAEG)飛行場まであと35分。



ウィングタンクが空になり、メイン(アクロ)タンクで飛行を続けます。


公称37.5 Gallonsの容量をもつウィングタンクは、実際には39 Gallonsほど容量がある様子です。好みの問題でしょうが、私は単機で飛行する場合、ウィングタンクやXCタンク内の燃料を限界まで使います。

燃料の枯渇が近くなったら、時計を見ながら「その時」を待ちます。枯渇時に圧力表示が上昇するタイプ、または下降するものがあるようですが、Fuel Pressure Gauge(燃料圧力計)は燃料枯渇の直前に表示が不安定になり、予測ができ便利です。ENG運転が不安定になる前に切り替えて、飛行を続けます。



アルバカーキ―でタイ料理店を見つけました。おいしい。ごちそうさまでした。





フェリーフライト2日目。朝TVをつけると、ニューメキシコ州北部は嵐の予報です。私は西方へ、AZ州を抜け、ネバダ州とカリフォルニア州の州境あたりのルートを考えていましたが、オーナーからソルトレイクシティを経由する、上の絵のルートを勧められました。

ルートの東側に低気圧がありましたが、雲(雨雲)の反応は少なく、雲を避けて飛べるかもしれません。興味のあるルートでもありますし、試してみましょう。



進路上にOvercastの雲。トップは15,000 ftくらい?この飛行機で飛び越えることはできせんから、雲の下を飛行します。



光のある方向へ。



残念。雲ばかりで、抜け道がありませんでした。


私も経験豊富なマウンテンフライヤーではありませんが、「Optionを確保して飛行する」はどのような飛行でも共通です。


きっと、あの雲の向こう側は晴れているだろう。

少しだけ、雲に入って、向こう側に行ってみよう。


希望を持つことは結構ですが、これらは絶対にやってはいけません。VFRの鉄則です。視界を失って飛行することは、VFR / IMCという異常な組み合わせの中、誰からの支援も安全の保証もなく、未設定の計器飛行ルートを自の命と引き換えに実験することです。


鉄塔には必ず送電線があるから近づかない。谷間などを飛行中に、もし同高度に、両側に鉄塔が見えたら送電線への衝突は間近です。

町や道路の近くは安心するものですが、最近はどんな田舎でも、携帯電話用の鉄塔があります。

ここなら飛べそうだ。しかしそれは、他にも誰かが飛行しているかもしれない?


21世紀になっても、小型飛行機のVFRでの飛行は冒険です。でも大冒険にならないようにしましょう。



もう大丈夫。新たな目的地はアリゾナ州コロラドシティー飛行場です。



Flight Awareの飛行記録です。右下が出発地のダブルイーグルII(KAEG)。離陸して北西(左上方向)に飛行して、諦めて帰ってきています。これによると、予報よりも雨雲が多かったようですが、確かにこの日はニューメキシコ州からテキサス州にかけて大荒れになっていました。


私: 申し訳ないけれど、勧められたルートはだめだったよ。

オーナー: 見ていたよ。ずいぶん苦労したみたいだね。ハハハ!



グランドキャニオン!


グランドキャニオン上空を初めて飛行しました。いつもはアリゾナ州の南側か、北回りならユタ州やアイダホ州などを、東西方向に飛行していましたから、ここを飛ぶ機会は今回が初めてです。



すごい造形です。



離陸後3時間弱、アリゾナ州コロラドシティー飛行場(KAZC)に到着しました。風が相変わらず強いですが、燃料補給で機体を傷つけないように・・・。



離陸すると、すぐ目の前はユタ州セントジョージ、そしてザイオン国立公園です。赤い大地が美しい。





オーナーから「今夜の格納庫をボイジーに確保したよ。」と連絡がありました。次の目的地はアイダホ州のボイジーエアターミナルです。Class Cの空港は管制からの要求も煩わしく、格納庫も燃料も高価で、あまり気が進まないのですが。



こんなところに滑走路が。タイヤの大きなBushplaneなら降りてみたいものです。


向かい風が最大で55KTSと強く、時折GS(Ground Speed、対地速度)が120 KTS程度まで低下しました。ボイジーまでたどり着けるよう、出力を60%程度に下げ、80度FほどROPにして、燃料を節約します。計算上は30分の予備燃料を残して到着できるはずです。



美しい景色。





オーナー: お前は町や道路の近くを飛ばないんだな?不安にならないのか?

もちろん不安もあります。しかしこの状況であなたの要望に応えた結果がこれなのです。



外気温0度C。寒い・・・。

離陸後2時間20分。あと5分で燃料タンクの切り替えです。アイダホ州ボイジーまで40分。



フェリーフライト3日目。昨日までの強風も収まり、快晴です。


目的地のフライデイハーバー飛行場は雨、雲も低く、IMCです。午後4時以降はMVMCになる予報ですので、まずオレゴン州ポートランド近郊のトロウトデール飛行場(KTTD)まで行って、天候待ちです。




今後の飛行に備えて、パワーセッティングの記録を。

高度: 8,500 ft MSL

気温: 5度C

回転数: 2,450 RPM

吸気圧力: 19.2 in-Hg

出力: 61%

排気温度: 1,282 deg F @ No.2、120度F ROP

燃料流量: 13.4 GPH




以上の設定で、真対気速度は 168 KTS が得られます。

前回の70%のパワーセッティングと共に、状況に応じて使うと便利です。



大平原に住む人々。



凍てついた湖。でももうすぐ春です。



オレゴン州ポートランドの東80㎞、フッド山(Mt. Hood)。オレゴン富士とも呼ばれるそうです。





トロウトデール飛行場で天候の回復を待ちます。まだ到着地はIMCですが、シアトルエリアの天候は回復してきたようですので、無理ならKBFI、ボーイングフィールド辺りにダイバートします。




1700時。現地の雲高が1,300 ft Brokenになりました。Go!



この先はMVMCです。雲の下へ。



サンフアン島のフライデイハーバー飛行場(KFHR)に到着。


「待て、なぜあの飛行機はこちらの問いかけに答えないんだ?」 ・・・無線の周波数を間違え、しばらく他所の周波数で送信してしまいました。迷惑をおかけしました。



今回の実際のルートはこのようなところでした。ソルトレイクシティを通るルートを飛行できなかったことは残念でしたが、ネバダ州を北西に、斜めに飛行したことも初めてでした。いい経験になりました。



すてきなお家とすてきな人々。

あたたかいおもてなしをありがとうございました。



翌朝。サンフアン島を案内していただきました。



島の西側。向こうに見える陸地はカナダです。



島の北西に位置するロチェハーバー。




USへの入国者はこちらへ。





サンフアン島はとても美しいところでした。いつか季節のよい時期に、自転車とキャンプ用品を持って滞在したいものです。


オーナー: どうだお前、知り合いが整備士を探しているんだが、ここで仕事しないか?

いいですね・・・。




帰り道、サンホゼでラーメンをいただきます。


明日からはまた飛行機の整備です。あの部品を引き取りに行って、あの作業の打ち合わせと、そうだ、あの工具も注文して・・・。おやすみなさい。

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