2017年7月9日日曜日

Spinを考える 6




当Blog、Aerobatic Channelの閲覧記録を見ると・・・

1位 曲技飛行の定義
2位 Q and A 可変ピッチプロペラについて
3位 Spinを考える 5

となっていました。航空力学などを勉強している方がいらっしゃるのでしょうか。何かお役に立てていればと思います。



第3位の「Spinを考える5」は、いささかミステリアスな現象であるスピンについての連載第5回目でした。最後の更新から2年以上の日々が経ってしまっていますが、スピン中の機内の映像を編集しましたので、ここに掲載します。


この動画を撮影した目的は2つ。

1. PAREとPRSの2種類のスピンリカバリーを行って、それぞれ回復に要する高度の損失を確認する




Pitts S-2Bの前席計器盤の高度計



理論的にも経験からも、スピンリカバリーにはPAREが有効であるとしてきましたが、実際に数値として確認したことはありませんでした。今後の飛行訓練でも重要な情報となることでしょう。



2. 計器盤にインクリノメーター(傾斜計)を中央と左右に取り付け、表示を確認する




Pitts S-2Bの前席計器盤に取り付けられたインクリノメーター



ある本には、「スピン中はその方向に関わらず、計器盤左側にあるボールは左側へ、計器盤右側のボールは右側へ、発生する遠心力により移動する。中央のボールは縦軸上にあるために、中央に留まったままとなる。」と書かれ、またある本は「スピン中に受けるヨーイングのため、ボールは旋転方向の逆方向へ変位する。」としています。

またある方は、「スピン中のボールは、スピンの旋転軸の内方に働く遠心力(?)により、旋転方向に移動する。ボールの向きと反対側のラダーを蹴ることでリカバリーができる。」とおっしゃいます。一体何が正しいのでしょうか?






スピンについて、少しおさらいをしますと・・・

スピンは日本語では「自転」、英語では「オートローテーション」として表現されます。物体の軸回りの回転(一軸回りのみに行われる回転)、または内部の点回りの回転(複数の軸の回転が組み合わさったもの)が、それ自身でエネルギーを得て、運動を続ける状態を指します。

身近なところで見られるオートローテーションは、回転しながら落ちて行く、木の葉や松の種でしょう。何らかの方法で飛行機や滑空機を「松の種」と似た状態にすれば、理論的には、どのような固定翼機でもスピンが行えます。

このBlogをご覧になられている皆さまはすでにご存知でしょうが、ストール(失速)とヨーイング(垂直軸回りの運動)の組み合わせがスピンに必要であることは、言うまでもありません。それでは、そろそろ動画をどうぞ。





文章が長く、読むことに苦労することと思います。一時停止を組み合わせてご覧ください。



この動画で行ったのは左方向の、アップライト ノーマルスピンと、アップライト フラットスピンの2種類ですが、いくつかの貴重な情報が得られました。それらは・・・



1. スピンリカバリーではPAREが最も有効であること






右エルロンを使用したフラットスピンからのリカバリーでは、ラダー入力から停止まで、PRSでは700ftから800ftの高度損失があり、対してPAREでは500ftでした。さらには、PRSの高度損失はラダーのポンピング操作をした上での結果であり、その操作がなければ高度損失はさらに大きくなるはずです。



2. スピン中のインクリノメーターはスピンの旋転方向と無関係であること

姿勢指示器や旋回計などジャイロスコープを利用した計器類は、表示角度に限界があるものの、アップライトスピンに限り有効です。しかし、インクリノメーターがスピンの旋転方向を示すことはありません。ボールは旋転方向の反対側に発生する遠心力と、機内の見かけ上の重力とが釣り合った位置に変位するのみです。




アップライト ノーマルスピン中の各インクリノメーターの表示

左側のボールは左へ、中央のボールは若干左へ、右側のボールは若干右に位置しています。



ノーマルスピン中の旋転軸は、重心位置から離れ、旋転方向側の主翼翼根近くにあります。機体は左に傾きながらスピンしていますから、旋転軸に近い左側のボールは「重力>遠心力」のために左側へ。しかし、右側のボールは旋転軸から離れているため、「重力<遠心力」となり、若干右側へ変位しました。




アップライト フラットスピン中の各インクリノメーターの表示

左側のボールは左へ、中央のボールは中央に、右側のボールは右に位置しています。



エルロンを右に操作して、機体を水平にさせると、アップライト ノーマルスピンから、アップライト フラットスピンに移行します。フラットになるにつれ、旋転軸は重心近くに移動し、飛行士の体は座席後方に強く押し付けらるようになります。

水平姿勢に近くなった機内の見かけ上の重力方向は真下になりますから、各インクリノメーターの表示はそれぞれの位置での遠心力次第です。つまり左右のボールはそれぞれ外側に変位し、中央のボールは中心に留まることになりました。






ただし、これらの表示は計器盤(インクリノメーター)が機体重心位置の近くにある場合です。エアレーサー機のように計器盤が機体の比較的後部にある場合は?旅客機のように操縦席が重心位置からはるか離れた前方にある場合は?私には理解が難しい、未知の領域です。研究は続きます。


Spinを考える 7へ続く

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