2020年2月16日日曜日

時には昔の話を 2





2010年2月18日、17時18分(米国西海岸時間)。FedEx Feederの単発ターボプロップの小型貨物機、Cessna 208B、Super Cargomasterは定刻でCA州アーケータ空港を出発した。

日没は17時54分。2月になり日は延びたが、出発地のアーケータは雲に覆われ、また上空にも雲が残り、離陸後すぐに暗闇に包まれて夜間飛行になった。






高度9,000ft MSLにレベルオフ、南東へ進む。サクラメントバレーに入ると完全にVMCになった。アイシング(着氷)もなく、今夜の飛行はいつになく順調だ。今夜は宿に早く帰れるだろう。

自機はSouthwestやUnitedなどの旅客機に交じり、サクラメント国際空港の滑走路16Rへ、対気速度170KIASでヴィジュアルアプローチを開始した。滑走路まで約1Mile、高度300ft AGL、速度約160KIAS。おや?前方に何か、白い雲が見える。・・・いや雲じゃない、鳥の群れだ!






「バン!」


同18時41分、バードストライク。避けることもできず、一羽が右側主翼の、レーダードームの向こう側に衝突したようだ。しかし運がよかった。どうやら右側主翼に当たっただけで、エンジンの運転は順調だ。突然のことで驚いたが、滑走路も近い。今はまず着陸しよう。

パワー バック、フラップス ダウン。減速と共にAOA(迎角)を増やし、そして増えたAOAが増えすぎないように、AOAをCAOA(臨界迎角、失速角)に近付かないように、フラップスを下げる・・・。

しかしおかしい。なぜか飛行機が右へロールする・・・。左エルロンを入れるものの飛行機はさらに右へロールを続け、ついに右に20-30度バンク、しかしエルロンはすでに左へ一杯。

一瞬、炎に包まれる自機が脳裏に浮かぶ。いやそれはまずい。パワーを足して、エルロンにDynamic Surgeを加え、飛行機を水平に戻すことができたのは運がよかった。少々ハードランディングになったものの、着陸し、飛行は終了。

「助かった・・・。」






事故後の検査:

鳥は右側主翼に備え付けられているレーダーの外側、ランディング/タキシ―ライト部に衝突した。衝撃は右側主翼のスパーウェブ、スパー(主桁)のロードを受け持つ主部分に伝わり、結果スパー全体が下向きに変形した。加えて、エルロンのコントロールケーブル部分が脱落し、エルロンコントロールが減少した。

当該機は右側主翼を交換し、約3か月後にサービスに復帰した。現在も活躍中だ。






事故回避の方法は: 


バードストライクの防止は・・・。それは鳥を避けることの他にはない。


鳥は通常、曇りの時なら、雲の下や雲の上を飛ぶことが多いから、雲を抜けるときに注意しろと、またイナーシャル セパレータを開いて、異物の混入に備えろ、などと言われる。外を注視することで発見も可能だろうが、単独飛行が主の小型貨物機の運行では、やはりワークロードの面で難しい。

では、この件で発生したフレア中の右ロールについてはどうだろう。バードストライクの結果、右側主翼のスパーキャップが下向きに変形、またエルロンのコントロールケーブルの脱落が原因とのことだ。

これは私見だが、鳥が衝突して主翼のリーディングエッジ(前縁)が破損、変形したことで、気流の剥離が早期に起き、右側主翼のストール(失速)が早くなったこともあると思う。なぜ翼型がそのような形状になっているのかを考えれば当然のことだろう。

飛行中に主翼や尾翼が破損しリーディングエッジが変形したら、速度は高めを維持し、迎角はなるべく浅く、着陸時のフレア(引き起こし)は最小限にした方がよい。尾輪式飛行機でいうところのウィールランディング(接線着陸)の考えだ。これを用いることで、片翼の早期失速を含む、異常な失速現象を防ぐことができるはずだ。






もし、それでも飛行機のロールをコントロールできなかったら・・・。私は主翼の破損まで考えていなかったし、またエルロンのコントロールロスも頭になく、いつも通りにフレア操作をした。結果、上記のようにエルロンが「足りない」状態になったわけだが、そこで有効な手法の一つが、通称「Dynamic Surge」だ。一般的には曲技飛行での超高迎角機動で用いられる手法で、通常飛行では不要。しかし私は、Cessna 208Bにおいては強い横風下の離陸時に、この手法を使って早めにウィングローに移行して離陸するなど、普段から親しんでいた。

エレベータやエルロン、ラダーなど、操縦舵は最大角度からわずかに戻し、また最大角度に入れる「サージング」を与えると、一定角度で維持するよりもその効果が向上する。例えば、低速度+高迎角からループ(宙返り)を行うとき、エレベータに「サージング」を加えると、勢いを失った機首上げを再開させることができる。

スピントレーニングで飛行機が完全なオートローテーションに入ってしまい、通常のスピン リカバリーでは止まらないということも、過去に何度か遭遇した。その時は、ラダーとエレベータをサージングさせて回復させた。

同様に、強い横風のある滑走路から離陸するとき、教科書的に、エルロンを最大角度で風上側に保持しているよりも、最大角度とわずかに戻した角度とを往復させた方が、早くにウィングローに移行でき、離陸時の方向維持を容易に行える。その効果はせいぜい60-70KIASでウィングローになるところを、50-60KIASで行える程度のもので、必ずしも必要な操作ではない。また着陸時に使ったことはこれが最初だったが、こうした研究(遊び)が身を助けたとも言えるはずだ。






鳥の正体は:

翌日、鳥の遺骸は検査機関に運ばれ、衝突したのはタンドラ スワン(Tundra Swan、コハクチョウ)と判明。サクラメント周辺は川や湖が多く、鳥の群れは常に目にした。コハクチョウは翼幅が2m前後の大きな鳥で、もし複数の鳥に衝突したら、操縦不能になることは十分にあり得る。コハクチョウ、許しておくれ。






この一件から10年。職業飛行士として毎日飛び続けていれば、いずれまた何かあるだろう。

でも今は、10年間の無事故達成が嬉しい。
Happy 10-year anniversary!



詳しい内容はこちらから:
NTSB Accident Number: WPR10LA141
https://reports.aviation-safety.net/2010/20100218-0_C208_N892FE.pdf

2020年1月7日火曜日

時には昔の話を 1


人生には楽しい思い出がたくさんあり、しかし中には思い出すことも嫌な出来事もあるものです。
私の過去の出来事を少し・・・。



Episode 1

某日某所。今日から3日間訪れる訓練生はヨーロッパ在住のエアラインパイロットだ。彼は家族とヨーロッパ某国に住み、韓国の航空会社でAirbus 330の機長をしている。彼との飛行訓練はこれで2回目。ある小型単座のスポーツ機の飛行に備え、今回は離着陸訓練を主にしたいとのことだった。

彼のこれまでの総飛行時間は約10,000時間。ただ、過去の経験のほとんどは大型旅客機。今回の訓練で使用する小型尾輪式飛行機では、離着陸時の方向維持が主なポイントになることは言うまでもない。

ヨーロッパからの長旅の後の訓練であり、しかし彼には効率よい飛行訓練を、可能な限りの経験をしていただこうと、私が機体の準備や燃料補給を行い、その間の10分は彼には休憩してもらう。飛行機と私のスケジュールは一杯。確保できた4時間の間に約48分の離着陸訓練を2回、可能なら3回。いや4回いけるかと、とにかく詰め込んだ。

ハイパワーなこの小型尾輪式飛行機は加速上昇性能に優れ、他にトラフィックなどの干渉がなければ、48分の間に15回から20回の離着陸を行える。その様はまるでローラーコースターだ。初日は4時間の時間制限の間に2回。2日目は3回飛行した。

離着陸の難易度の高さで定評のあるこの機体で、これだけの離着陸回数を行えば、疲労が限界に達するのは当然だ。彼の尾輪式飛行機の離着陸技術はまだ不十分で、着陸後に方向維持を失う事は頻繁にあり、緊張が走る中での訓練が続いた。

3日目の朝、私は軽い頭痛がする中で目が覚めた。プロフェッショナルとして、体調に不安があれば飛行訓練を辞退することは当然だろう。しかし、忙しい日程を調整して、遠くヨーロッパからやってきた彼との訓練を辞退する勇気は私にはなかった。これまでも、さらに具合の悪い状態で飛行することは何度もあった。そう、軽い頭痛程度で辞退することない。

今日は最終日。着陸訓練の仕上げをがんばろうと、ブリーフィングをして出発。しかし、方向維持に必要な彼のラダー操作は、どうしても前輪式飛行機、それも大型機のスタイルだ。とても尾輪式飛行機のそれではない。1回目の飛行を終えて、燃料補給、そして休憩している彼を呼んで、また離着陸訓練に上がる。

技術というものは簡単に身に付くものではない。およそ15回行った着陸で、ゴーアラウンドは67回はあっただろうか。フレア中の機体の高さ、降下率、方向維持、ハードランディングなど、何か問題が露呈すれば、またその予兆があれば、私はすぐにゴーアラウンドを指示した。最終的な目標が彼が自身でその判断ができるようにならなくてはいけないが、「ゴーアラウンドは常に最善の選択肢だ」を合言葉に何度もゴーアラウンドした。その度に私は両親指を立てて「Good job!」と叫んだ。

そろそろ離陸して40分になる。彼の集中力も限界だ。着陸して休憩しようと私は提案した。そう、私は「Let’s make a full stop(着陸しよう)」と言ったのだった。

そしてそれは起きた。着陸直前に滑走路左側に寄った飛行機を見て、私は「Give me the Right Aileron(右にエルロンを入れて)」と指示した。そうなのだ、それまでの私なら「ゴーアラウンド!」と必ず指示していた状況なのに、その時の私の言葉は「右にエルロンを入れて」だった。

後席に座る訓練生に可能な限りの視界を提供しようと、前席に低く座ることが私のスタイルだ。それは、外から私の姿が見えないと言われるほどに低い。それもまたいけなかった。私は一瞬機体の姿勢が判らなくなり、次の瞬間彼は「Oh, No!」と叫んだ。

気が付くと機体は左に大きく傾き、左翼端は滑走路に接触していた。「I have!」 咄嗟に私は操縦を代わったが、すでに遅い。機体の姿勢と降下率から判断して、機体がハードランディングしたのは明確だった。

その後の機体検査で、左翼端と左エルロンに擦過痕があり、左側のウィールパンツを破損した他にダメージはないと判明した。幸いにも飛行機は修理可能、そして我々2人も無事だったことはよかった。私は、わずかにも彼を危険にさらしたと、そのことを彼に詫びた。

修理は保険会社を通さずに、社内で行うことになった。確かに、保険会社にクレームすれば保険金額も上昇し、私はともかく、彼の経歴にも傷がつくことになるだろう。家族を養う彼のためにも、それはできるだけ避けたい。

彼のミスでハードランディングとなったことだが、全ての責任は教官として、機長として搭乗していた私にある。アクシデントレポートの必要もない、保険会社へのクレームもしないと伝えると、彼は本当に安心した様子だった。よかった。

責任の一つとして、私はおよそ1ヶ月、無給で飛行機の修理に当たった。私はあるイベントとその準備におよそ1年半をほぼ無収入で過ごしていたため、再び迎えた無給生活は生活をさらに厳しいものにした。私は彼に1ヶ月分の生活費の支援をお願いした。「申し訳ないが、$2,000の支援をお願いできないだろうか?」と。

彼からの返事は残念なものだった。「何を言っているんだ?会社からの給料があって、保険会社からもお金が出るのだろう?それでさらにお金をなんて、俺はよくても家族が納得しない。断る。」とのことだった。「保険会社へ請求すれば、いつ、どこで、誰がそのイベントに関係したか、全てが知られるのに、それを恐れたのはあなたではないか。」と憤りを感じたが、それは伝えなかった。私は友人を失った。

飛行機に携わってから25年+。飛行機の操縦技術や整備技術は少々身に付いたが、対人関係は相変わらずだ。誰かのためにBestを尽くし、そして後悔する。私自身のこの問題点の改善は期待できないが、とりあえず、今後は「Go around!」をさらに大切にしようと思う。

2020年1月1日水曜日

2020年 あけましておめでとうございます




Happy New Year

あけましておめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願いします

髙木 雄一
REDFOX Airshows




Photo: Mr. Hank Lutz

2019年10月30日水曜日

フライトログ 1 ダブルハンマーヘッドターン


Photo: PM Photography



2019年 REDFOX Airshowsは、3月のサリナス空港のCalifornia International Airshow Salinasとトラビス空軍基地のThunder Over the Bay8月のOR州マドラスのAirshow of the Cascades10月のリバモア空港のLivermore Airport Open House and Air Show、そしてアップルバレー空港でのApple Valley Airshowに参加しました。

飛び足りない思いもありますが、こうして2019年のREDFOX Airshowsの活動を無事に終えられたことはとても嬉しく思います。皆さま、応援ありがとうございました。






Apple Valley Airshowから帰還して、愛機Pitts Special S-2Sは冬季整備に入りました。いくつか手直しや新たな無線機器(ADS-B)の取り付けを行い、来年2月には整備を終え練習飛行の予定です。

実は、毎年始めの数回の飛行は、飛行感覚を取り戻すことやマニューバーの手順を思い出すことに時間を費やしていて、非常に非効率・・・。

今回はREDFOX Airshowsがパフォーマンスフライトで行うマニューバーのいくつかを、私自身の備忘録として記述します。まず第1回目はダブルハンマーヘッドターン(Double Hammerhead Turn)です。




<動画> ダブルハンマーヘッドターン 地上から
2016年全米曲技飛行選手権 4-min Freestyle
動画提供: Mr. Michael Lents



ダブルハンマーヘッドターンは略してダブルハンマーとも呼ばれます。通常のハンマーヘッドは、バーティカルアップラインの頂点で180度のピボットターンを行うマニューバーですが、ダブルハンマーではさらに360度のピボットターンを継続して行い、合計1回転半のピボットターンを行うものです。

まずは、ノーマルな、180度のピボットターンのみのハンマーヘッドターンの解説から行います。




<動画> ハンマーヘッドターン
2018年9月 能登空港上空 試験飛行




ハンマーヘッドターン(Hammerhead Turn

1. 十分な速度(Pitts S-2では140MPH以上を推奨)を確保した後、バーティカルアップラインに移行し、姿勢を保持する。右回転(操縦席から前を見て)に運転するエンジン搭載の機体では、一般的にハンマーヘッドターンは左に行うため、垂直上昇中は左翼を見て姿勢維持することを推奨する。


2. 速度が減少するに従い、プロペラトルクの反作用から機体は左にロールを始め、これを右エルロンで対処する。同時に、プロペラスリップストリームの影響から左にヨーが起こり、これは右ラダーで対処する。







3. ピボットターンに適切なスピード(Pitts S-2B/Cでは約2 - 5MPHExtra 300Lでは少し速度を保ち、10 – 20KTS。)で、左ラダーを一杯に入力してピボットターンを開始する。







トルクの影響を右エルロンを必要量(Pitts S-2B/Cではほぼ一杯。Extra 300Lでは半分から2/3程度。)使用して打ち消す。エレベータを前方に入力し、プロペラのジャイロ効果(操縦席から見てピッチアップの方向へ変位する)を打ち消す。


4. バーティカルダウンラインの20 – 30度手前で右ラダーを入力し、ピボットターンを停止。速度を回復させてレベルフライトに移行する。



ダブルハンマーヘッドターン(Double Hammerhead Turn

引き続きダブルハンマーヘッドターンの解説です。機体はPitts S-2系 (B、C、Sモデル)に限定します。ダブルハンマーの手順は3までは上記と同じで、4以降は以下の通りです。




<動画> ダブルハンマーヘッドターン

2019年10月 Livermore Airport Open House and Air Show



1 – 3 上記、ハンマーヘッドターンの手順を参照。


4. 引き続き左ラダーを維持する。入力している右エルロンはプロペラトルクの反作用に対処するためほぼ右に一杯。真下を向いた姿勢でエレベータを前に押し、10 – 20度程度のネガティブダウンにする。








この時点でネガティブダウンとすることでピボットターンの回転面が傾く。これ以降のピボットターンでエレベータを前に入力する余地ができ、ジャイロ効果からの左へのヨーイングを期待できる。


5. さらにエレベータを前に押し、ヘディングが20度ほど変化する。ジャイロ効果により、左へのヨーイングが増加する。







右エルロンの入力を続け、20度程度右にロールした状態とし、これ以降のプロペラトルクに対処させる。不足すると次の6で機体が水平になり、通称「ハンマースピン」となる。


6. 左ラダーと右エルロンの入力を続ける。エレベータを前に入力し、ヘディングはさらに変化(計およそ30度)する。







以降は降下しながらのピボットターンのため、相対風が後ろから機体に作用し、右エルロンとプロペラトルクによりわずかに左にロールする。前述のように、5での右ロールが十分であれば、プロペラトルクによる左ロールはほぼ相殺する。


7. 引き続き左ラダー、右エルロン、そしてエレベータを前に保持する。

垂直付近の理想的な姿勢はピッチが完全に垂直であることだが、背面方向に機体が倒れるリスクがある。それを防ぐために、機首が若干ポジティブ側(20 - 45度程度)に倒れた姿勢を推奨する。







後方からの相対風のため、エレベータを前に押すと機首が垂直側へ、中立側または後ろへ引くと水平方向に倒れる(フラット気味になる)など、逆方向方に作用する。

機体は引き続き左にロールを続けるが、この変位は56のヘディング変化と相殺され、ダウンラインではほぼ同じヘディングに戻る。


8. 視点を左翼や左後方に移し、ダウンラインの方向を視認する。左ラダーの入力でピボットターンを継続し、右エルロンとエレベータは若干緩み、適切なダウンラインを求めて調整する。







9. ダウンラインで右ラダーを入力し、ピボットターンを停止。降下しながらのマニューバーであるため、ピボットターンの停止は容易。速度を回復させてレベルフライトに移行する。







以上です。これまでの経験から考えると、上に記述したような、一般的な手法が再現性が高いようです。他にも下のようにいくつかの手法を試しましたが、残念ながらあまり効果的ではありませんでした。



ダブルハンマーヘッドターンの完成度の向上を目指して

1. ピボットターン中の左エルロン
上記の7の機体が垂直姿勢になる手前で、左にエルロンを入力して、後からの相対風を用いてプロペラトルクに対処できないかと、何度も試しました。理論的には正しいと思われるものの、再現性が低く、またエルロンが左右に激しく振られ、姿勢も安定させることができませんでした。


2. ピボットターン開始後のパワー調整
ダブルハンマーの練習を始めたころは、どうしても理想通りの飛行ができず、左ラダーの入力と共にパワーを一時的に絞り、垂直降下の姿勢からまたフルパワーに・・・などと試したことがありました。しかし、最大出力260HPエンジンのPitts S-2B/Cや、大柄で重いExtra 300Lでは推力がピボットターンを妨げることはなく、無意味な行為のようです。

ただ、自身のPitts S-2Sのように軽量高出力な機体では、ピボットターンで機体が左方向に大きく飛んでしまい、ピボットターンの妨げになるようです。最近はピボットターン開始と共に25 in-Hg程度に絞って行っています。

以上2つは相当数の練習を重ねましたが、満足する成果は得られませんでした。しかし理論的には間違っておらず、あと少しの工夫で解決があるのかもしれません。練習の合間にまた試してみたいものです。


3. 視覚的効果を用いる
ダブルハンマーはフラットになりがちで、「ハンマースピン」となることも珍しくありません。しかし、飛行機の主翼下面を観客に向けることで垂直姿勢を維持しているように見せることができます。エアショーパフォーマーにもこの手法を用いる方はいますが、私の理想は主翼上面や操縦席を観客に向けることです。


4. ピボットターンのエントリーを早めのタイミング(速い速度)で行う
ダブルハンマーには勢いが必要だと信じ、速度が速い状態で行う方もいますが、これは誤りです。速度が速いと180度のピボットターンが終わった時点ですでに降下速度が速く、その後の360度のピボットターンも難しくします。ノーマルのハンマーヘッドもダブルハンマーも、エントリーはどちらも同じであるべきです。





主翼下面を観客側に向けると、多少フラットになったダブルハンマーも地上からは垂直姿勢に見えます。



ダブルハンマーを行い易い機体とは:
1. 小型
2. 軽量
3. 重量物が重心位置付近に集中している(マスが集中している)
4. プロペラによるジャイロ効果が大きい
5. 垂直尾翼とラダーの大きさが必要最小限

以上5つがある考えます。つまりこれらの特徴を備えるPitts Special各種は、ダブルハンマーに最適な機体の一つです。対して、Extra各種はダブルハンマーを不得意とする機種で、ここは設計思想から致し方ないことでしょう。





Extra 300L



そんなExtra 300Lですが、何とかしてダブルハンマーヘッドターンを行うことはできないものでしょうか。以下の工夫が効果的です。


1. 軽量化
ウィングタンクを空に、アクロタンク内の燃料を必要最小限にする。同乗者を乗せず、単独で飛行する。


2. プロペラ回転数
プロペラガバナーを調整し最大回転数を確保、または最大回転数+100rpmなど、許容範囲内で調整する。回転数を上げることでジャイロ効果も増加する。






プロペラガバナー



3. バーティカルアップライン
ピボットターン開始直前にエレベータを前方にわずかに押し、 20度程度のポジティブアップとし、その後のエレベーター入力の余地を与える。


などがあります。まだ満足できる域には達していませんが、工夫次第でそれなりの形にはできるようです。



曲技飛行競技と異なり、エアショーパフォーマンスフライトには判定基準などありませんから、仮にマニューバーが多少崩れたとしても、パフォーマーの「メッセージ」が観客に希望通りに届けばマニューバーは成功したと言えます。しかし、アナウンサーがどう取り繕っても、観客にどうメッセージを送っても、原型をとどめないほどにマニューバーが崩れてしまっては、それはもう別のマニューバーです。




<動画> ダブルハンマーヘッドターン 失敗例



残念ながらこの動画に見られるマニューバーはダブルハンマーではなく、「ハンマーヘッドの後、プロペラトルクを利用したロール」ではないでしょうか。ハンマーヘッドまたはダブルハンマーヘッドにあるべきヨーイングが全く見られません。

他にも、ピボットターンの代わりにスナップロールらしきものを行って「ダブルハンマーである」と主張する方も見られます。ダブルハンマーとは、「ハンマーヘッド+360度の限りなくピボットターンに近いもの」であるべきと考えます。



最後に、私の理想とするダブルハンマーを・・・





Andrews AFB Air Show 2011 - Sean D. Tucker



ボスのダブルハンマー(2分50秒と6分20秒)です。彼の飛行はいつも私の理想です。

次回はまた別のマニューバーを記述します。どうぞお楽しみに。

2019年8月31日土曜日

2019 WGAC / WAGAC 2


天気が安定しているため、競技飛行は順調に進んでいます。前線やサンダーストームなどで待機し、競技飛行を消化するために早朝から日没間際まで居続けることも珍しくないのですが。

今後も天気予報は晴れマークが続いているため、7月22日は午後からお休みをいただきました。




車で約30分、フネドアラ城に来ました。





完成は1446年。コルヴィン城、フヒャディ城とも呼ばれているそうです。ルネッサンス ゴシック調の建築だそうですが、ルーマニアらしい不思議な雰囲気です。




礼拝堂




「よくここまで来たわね」
・・・のようなセリフが頭に浮かびました。でも鐘尾さんです。




城内には足を踏み外しそうな場所がいくつもあります。
皆さん気を付けて・・・。







「城主は`二人の奴隷に『井戸を掘り終えたら解放する』と約束し、十何年後に完成させたものの、彼らはそのまま殺されてしまった。これがその井戸です。」

・・・など、悲しい歴史が多いところでした。でも楽しかったです。




翌日は地元の方々によるルーマニア パーティーでした。郷土料理とお酒がふるまわれ、フォークダンスが披露されました。音楽は世界を繋ぐ。すてきです。




ポーランドチームの皆さんと。 




美しい!




7月24日。やはり競技が順調に進み、今日は1日お休みをいただきました。車で2時間ほどのクルジュナポカというところに、日本食があるそうです。そろそろご飯が食べたいです。




ショッピングモールの中に回転寿司がありました。種類は少ないですが、立派な寿司です。たくさん食べてしまいました。




ヨーロッパに多いラウンドアバウト、円形交差点。運転しながら表示を見るのは至難の業・・・。酒井さんの案内がなければ、私一人では無理でした。怖かったでしょうね。ありがとうございました。




ルーマニアで多く見かけるアパート。非対称な、不規則な造りが面白いです。




Assumption Cathedral
日本語訳は不明です。美しい教会でした。




さあそろそろ帰りましょう。距離は170㎞程度ですが、いくつか市街地を通るため時間がかかります。ルーマニアはあまり西側資本が入っておらず、高速道路も少なく、とても素朴な国です。




7月26日、今日は午後早くに終わりました。デヴァ市内、山の上に見える廃墟の要塞に行きます。




Cetatea Devei

ロープウェイは終了してしまったので、がんばって登りました。







写真中央の右側が飛行場です。

ジャッジ活動をしていると空を飛ぶことがないため、空からの景色が判りません。なるほど、こんな感じなのですね。それにしても、風が心地よい。




7月27日、エアショーと閉会式です。

UnlimitedとAdvanced、各カテゴリー6回の飛行が行われました。真冬のような寒さの中、競技開始を待ち続けたり(フィンランド)、暑さ、ハチ、雷雲に耐えながらジャッジしたり(チェコ)、いろいろなことがありましたが、今回は本当に天候に恵まれ、安定して競技が進みました。







ロシア製(?)ヘリコプター、3機編隊の演技。迫力!




〈動画〉 White Wingsによるグライダー2機編隊のフォーメーションアクロ
BreakしてRejoin、そして並んで着陸・・・。感動しました。




Extra 5機のフォーメーションアクロ。ルーマニアは日本より規模の小さな国ですが、航空文化に大きな差があります。高い技術を持つ飛行士がこれほどまでに多いとは思いませんでした。感服です。




アドバンスドカテゴリーの優勝はポーランドのパトリシアさん。女性が世界選手権でチャンピオンになるのは初めてのことだそうです。おめでとうございます!




アンリミテッドカテゴリーの優勝はハンガリーのトスさん。ハンガリー航空で旅客機の機長をしながら競技に参加しています。何度目の優勝でしょうか。おめでとうございます。




皆さん、帰り道もお気をつけて。またお会いしましょう。






こうしてジャッジラインで競技者の方々の飛行を見ていると、私も競技に参加したくなってしまいます。私ならこう飛んでみたい。こうしたらもっときれいに飛べるのではないか?と。




ありがとう、ルーマニア!
フランクフルトまで鐘尾さんとご一緒です。



実は、数年前にWGAC(またはWAGAC)に参加を考えたものの、Power(飛行機)とGlider(滑空機)の曲技飛行に大きな壁を感じ、参加を諦めてしまったことがあります。すぐに参加ができるわけではありませんが、まず訓練から始めてみようか・・・。私には本当に無理なことなのか。ひょっとしたら、練習次第で克服もできるのではないか。

この冬、初心に返って訓練に行ってみます。