2014年12月18日木曜日

Spinを考える 3

「曲技飛行も危険回避の技術も、天性で行えることなど有り得ない。全ては訓練を繰り返して得られる、貴重な技術だ。」 - K.E談、T飛行学校、主任教官






スピン リカバリーの手順であるP A R Eは、語呂もよく覚えやすい手順です。操作はP A R Eの順序で、冷静に、体が自然に反応するよう、スピン トレーニングを繰り返すことが効果的です。

P A R Eはスピンを確実に停止させるという要求に答えるとても有効な回復操作ですが、なぜこの順にあるのでしょうか。



1. パワー バックが第一にある理由

何らかの原因で、飛行機が通常飛行から逸脱した場合、以下の6つの状況のどれかへと移行します。


(1) 水平飛行

(2) 上昇姿勢からの弾道飛行

(3) 降下やスティープ スパイラル

(4) ストール 〈失速)

(5) スピンやスナップ ロールなどのオート ローテーション (自転運動)

(6) タンブル (機体の左右軸周りに、機首と尾部が回転する運動。またはそれに近い運動。ナイフエッジ スピンやエンドー タンブルなどを指す。)


〈参考〉 ナイフ エッジ スピンの動き



ナイフエッジ スピンには「スピン」という名前が付いていますが、オートローテーションではないため、実際はスピンではありません。難易度が比較的低いのはダウンラインを降下しながら行うもので、機首をほぼレベルに保ったまま、左右軸周りにノーズとテールが追いかける動きをします。

運動エネルギーの消費が大きく難易度が高いものの、アップライン上で上昇しながら行うことも可能です。どちらも、レフト ラダーを保持してエレベーターを押し、ジャイロの摂動による左へのヨーイングを利用して行います。



〈参考〉 エンドー タンブルの動き



ナイフエッジ スピンと操作も運動もほぼ同じですが、バーティカル アップラインやバーティカル ダウンライン以外の方向へ行うナイフ エッジ スピンを、一般的にエンド オーバー エンド タンブル(通称 エンドー タンブル)と呼びます。図では水平方向に、右横へ向かって飛行する様子を描きました。




〈動画〉 エンド オーバー エンド タンブル (エンドー タンブル)



プロペラを回転させて推力を得る飛行機では、推力を得ると同時に、回転するプロペラからの様々な影響を受けています。ご存知の通り、右回転するプロペラを装備する飛行機は、1. ジャイロの摂動、2. トルク、3. スリップ ストリーム、4. P ファクターなどの効果により、レフト ターニング テンデンシー(飛行機を左へ旋回させようとする性質)を受けています。

(1)の水平飛行に移行した場合はそれ以上の回復操作は必要ありませんし、(2)の上昇や(3)の降下やスティープ スパイラルからの回復操作は今更説明も必要もないでしょう。

(4)のストールでパワー バックを行うかどうかは、飛行士の制御下にあるか、そうでないかで意見が分かれます。何らかの原因で、状況認識も行えないほど危機的な状況になれば、(5)のスピンへの移行の可能性を最小限に留めるためにも、パワー バックが効果的です。

(5)のオートローテーションに陥り、回転するプロペラによってヨーイングが発生している、または高迎角の状態を保っている場合は、パワーを減らすことでスピンの回復を助けることができます。

(6)のタンブルとはジャイロの摂動によるヨーイングを補助として用いるマニューバーですから、パワーを減らすことで自動的に(1)から(5)のどれかに移行します。

以上のことから、パワー バックはスピンを含め、状況認識を維持できないような危機的な場合でも、状況のそれ以上の悪化を防ぐ効果があると言えます。


また、これはPittsやExtraなどの高性能曲技飛行機で経験できることですが、「高出力 + 高迎角 + 低速度」で見られるレフト ターニング テンデンシーが、さらに迎角が高い「高」高迎角で、かつ速度が極低速域になる通称「ハリヤー フライト」や、マイクロ ループの遂行中は、スリップ ストリームが右側の胴体や垂直尾翼に当たり、一時的にライト ターニング テンデンシーを起こします。スピンの回転方向によっては、パワー バックなしでは回復が難しくなります。




通常の高迎角の飛行でのスリップ ストリームの流れ 1




通常の高迎角の飛行でのスリップ ストリームの流れ 2




「高」高迎角の飛行でのスリップストーリームの流れ 1




「高」高迎角の飛行でのスリップ ストーリームの流れ 2

非常に迎角が高い「高」高迎角の飛行では、スリップ ストリームの下部が垂直尾翼の右側に当たり、右へのヨーイングを発生します。



2. エルロンを中立に保つのはなぜか

機種とスピンの状況によっては、エルロンの操作(in aileron / out aileron、またはpro-roll aileron / anti-roll aileronなどと表現)がスピンからの回復を助けることもあるのは事実ですが、逆にエルロンの入力がスピンからの回復を遅らせる機種があることもまた事実です。

飛行中に、突然何らかの原因で意図しないスピンに陥り、瞬時の回復が求められるようなときに、エルロンの効果を試すような余裕はまずありません。危機的な状況ですから、ここはテスト パイロットにならずに、素直に回復操作を行うことが懸命です。




〈動画〉 アップライト、エルロン アクセレレーテッド (プロ ロール エルロン) スピン

上の映像は、左へのアップライト スピンで、左にエルロンを加えてモードの変化を試したものです。少し判り辛いところでずが、映像の0:34と0:36で、スピン時のヨーイングが減少して、スピンからスティープ スパイラル気味な運動へと変化しています。これはエルロンによるアドバース ヨーが、スピン時のヨーイングを打ち消しているためと考えられます。

先にも伝えたように、スピン中の機体の挙動は千差万別です。エルロンの入力のためにスピン停止後に機体がロールし、即座に上昇姿勢に移行できないことも危惧されますから、この操作がスピンを早期に回復させる手段として使えることは実用的ではないでしょう。

どの機種で飛行していても、どのレベルの操縦技量の飛行士であっても、常に確実なスピンからの回復を求めるためには、やはりエルロンは中立であるべきと考えます。



3. オポジット ラダーの操作をエレベーター操作の前に行う理由は?




スピン時の相対風の方向



スピンからの回復を確実にするためには、ラダーの効果が最大限にする努力が必要です。対気速度や迎角などが同じなら、揚力は翼面積に比例しますから、ラダーの有効面積が広ければラダーの効果も大きくなります。ただ残念ながら、スピン中の状態では、ラダーの全ての表面が有効利用できるわけではありません。アップライト スピンでは胴体下側から相対風が吹いているために、エレベーターの上側のラダーは遮られて効果を失い、エレベーターの下側のラダーのみが有効部分となります。




Pitts S-2Bのラダーとエレベーターの位置関係 1

エレベーターが中立位置では、ラダーのおよそ2/3がエレベーターでブロックされています。実際のラダーの有効面積はわずか1/3です。




Pitts S-2Bのラダーとエレベーターの位置関係 2

エレベーターを上げることにより、ラダーの有効面積が1/2近くにまで増加します。このことからも、ラダーの操作時はエレベーターはフル アップ(ポジティブ ストール時の位置)のままとしていることが適切です。



では、Piper ArrowやPiper Tomahawkなど、エレベーターが垂直尾翼上部に取り付けられている「T-tail」の飛行機ではどうなのでしょうか。

この場合はエレベーターがアップでもニュートラルでも、ラダーの有効面積は変化しないように思えますが、それでもラダーとエレベーターの順序はしっかりと守らなくてはなりません。なぜなら、スピン中にエレベーターを先にアンロードさせると、前々回の「スピンを考える 1」に記述したように、ノーマル スピンからアクセレレーテッド スピンへとモードが変化し、スピン リカバリーに不利となるためです。



〈参考〉 スピンからの回復において、エレベーターをラダーの前に操作した場合のモード変化



このように、機首姿勢は深くなるために速度は増加し、高度低下が激しくなります。また、それまでの「ピッチング + ローリング + ヨーイング」の複合運動から、ほぼ「ローリング」のみの動きへ変化し、そもそものヨーが少ないためラダーが有効的な操縦系統とならず、スピン停止までの時間がかかります。

また力学的に見れば、存在するアームも少ないために、ラダーによって発生するモーメントも少なく、効果的な回復とはならないとも説明できます。

エレベーター操作時のもう一つの注意点は、「スピンの回転が少なくとも遅くなるまで、エレベーターのフル アップを維持する」ことです。これを確認せずにエレベーターをアンロードさせると、エレベーター アクセレレーテッド スピンへ再びモードが変化し、スピンが再加速します。特に、フーリー デベロップト スピンの領域の経験が少ない曲技飛行競技者に陥り易い失敗ですので、競技飛行ばかりにとらわれず、定期的な再確認をお勧めします。


〈結論〉 スピン リカバリーは「P A R E」の順序で、落ち着いて、正しく行いましょう。



「ストール領域では、迎角が高くなれば揚力係数は減少し、迎角が低くなれば揚力係数は増加する。スピン時はストール領域にあるにもかかわらず、エルロンが通常通りに作用するのはなぜか?」



CL(揚力係数)及びCD (抗力係数)と、AOA (迎角)との関係 



教科書に見られる揚力曲線を思い出せば、これは確かに不思議な現象です。スピン中であっても左にエルロンを動かせば、飛行機はやはり左にロールし、右へ動かせば右へロールします。私たちは当然のようにこの現象を受け入れていますが、なぜ逆方向にロールしないのでしょうか?

この答えは、スピン中の迎角は上のグラフよりもさらに高いところにあるためと考えられます。一般的な揚力曲線は上の通りですが、多くは20度から25度辺りまでで、それ以上は省略されています。ではそれ以上の領域はどのようになっているのでしょう?




180度までの迎角のCL(揚力係数)とAOA(迎角)の関係を描いた図



私は科学者ではありませんから、私が伝えられることは実際の飛行で見られた現象のみです。その現象から推測するに、スピン中の迎角はこのグラフでの20度以降の領域なのでしょうか。ノーマル スピンではエルロンは通常通りの方向へ作用することからも、確かに納得できる仮説です。まれに、フラット スピンで主翼が左右にロールを繰り返すことが見られますが、これは迎角が45度を超えた領域で行われ、再び「ロール ダンピングの喪失」があるからでしょう。


故 本田 宗一郎 先生は、自動車レースを「走る実験室」と表現したそうです。先生の言葉をお借りすると、曲技飛行はまるで「空飛ぶ実験室」です。これからもいろいろな発見があるはずです。


参考: Airfoils at High Angle of Attack http://www.aerospaceweb.org/question/airfoils/q0150b.shtml


Spinを考える 4へ続く

2014年12月5日金曜日

Spinを考える 2

「曲技飛行の精度を求めるあまり、曲技飛行の本質を見失い、さらに飛行の本質までも忘れてしまった人々。それが曲技飛行競技者です。」 - Y. T談、カリフォルニア州在住






いくつかのスピンの基本情報をお伝えしたところで、実際にスピンがどのような段階を辿って行われるのかを見てみましょう。



スピン(アップライト ノーマル スピン)の3つの段階 (Jeppesen テキストブックより)

ウェイト アンド バランスを規定範囲内に保ち、ポジティブ側へのストールとヨーイングによってスピンを行い、さらに飛行士による余計な操作がなければ、そのスピンは「アップライト ノーマル スピン」となります。

行われるスピンが意図的であるか、またはそうでないかに関わらず、そこへ辿りつくまでにいくつも存在する原因を維持、継続させることによって、飛行機は最終的にスピンに到達します。ストールとヨーの2つの操作が行われ、スピンへと移行し、最終的には回復操作が行われて通常飛行へと戻ります。スピンの発生から回復まで、いくつかの段階に分けられる様子が上の図で示されています。

スピンの段階分けは、「インシピエント (incipient、初期の段階)、フリー デベロップト (fully developed、完全に発達した段階)、リカバリー (recovery、回復)」の3つか、またはさらに「エントリー (entry、開始)」を加えた4つが一般的です。ここでは、スピンの3つの段階分けを用いてみたいと思います。




〈動画〉 Pitts S-2C アップライト ノーマル スピン

こちらはスピン(アップライト ノーマル スピン)中の機内の様子です。動画では4回転のスピンが行われていますが、よく見れば、やはり3つの段階に分かれている様子が判ります。


0:05 エレベーターによるストールと、ラダーによるヨーイングが加えられる。

0:05 ‐ 0:10 インシピエント スピン。スピンへ移行する段階で、安定(通常飛行)を望む飛行機と、スピンを要求する飛行士の間で意見交換が行われている段階。ストールとヨーの入力による振り子現象も発生し、多くの飛行機では、スピンの開始後の2-3旋転がこれにあたる。飛行士のスピンを行いたいという意思を、飛行機が承諾する様子がスピンの旋転速度が速くなることで判断できる。

0:10 ‐ 0:15 フリー デベロップト スピン。スピンの旋転速度が最大限になり、飛行のエネルギーがスピンを継続することに用いられている。以後は、飛行機のスピンを継続するという意思を以って行われ、一定の旋転率と降下率を保って行われる。飛行士による積極的な操作がない限り、通常飛行への回復はない。

0:15 ‐ 0:16 リカバリー。スピンの旋転と反対方向のラダーが入力。ただし、エレベーターは引き続き引かれ、ラダーの効果を最大限にする。

0:17 引き続きリカバリー。スピンの旋転率(ヨーイング)の減少を見て、エレベーターのアンロードが行われたところ。スピンが停止し、通常の降下状態となる。

0:18 入力したラダーを中立にして、反対方向、この場合は右方向へのスピン(クロスオーバー スピン)を防止する。

0:19 パワーとピッチを上げ、高度低下を最小限にし、安全高度へと上昇する。



動画では操縦操作が撮影されていませんから、どのような入力で行われたかが判り辛いと思います。別に撮影した、Extra 300Lの操縦席での写真をご覧ください。



機体は再びExra 300Lです。




まずは、スピン エントリーの準備を行います。




高度を十分に得たら、パワーを絞って減速します。




誤解がないようにしたいところですが、減速によって飛行機がストールするのではありません。ストールに速度は無関係で、ストールに必要なのは臨界迎角以上の迎角です。+ 1Gの状態で、不要な負荷をかけずにストールさせるために減速が必要なのだとご理解ください。




完全にストールする前にスピン エントリーの操作を行うと、ラダーの効果が十分であるためにスピンが容易に行えます。また、ストール領域での「ロール ダンピングの喪失」による不要なローリングを防ぐこともできますから、迎角は臨界迎角以下で、尚且つ速度を保った状態(Extra 300Lの目安は70KIAS、Pitts S-2系では70MPH)で開始します。




エレベーターを最後方まで引き・・・




スピンさせたい方向のラダー ペダルを蹴ると、ストール + ヨーの結果、スピンとなります。訓練であれば、高度の範囲内でスピンを継続して、動きを観察してみましょう。何か新たな発見があるはずです。



では、続いて回復操作に入ります。私が推奨する回復操作は、ご存知のP A R E(ペア)です。

P - Power (パワー)、パワー アイドル
A - Aileron (エルロン)、ニュートラル
R - Rudder (ラダー)、オポジット
E - Elevator (エレベーター)、アンロード

では、このP A R Eを使ってスピンからリカバリーさせてみましょう。




1. パワー アイドル

パワーオフ ストールの要領でスピンを開始しましたから、パワーは最初からアイドルであることは判っていますが、確認は怠らずに行います。これによって、回転するプロペラによるジャイロの摂動やPファクターなどが解消し、スピン リカバリーが容易になります。




2. エルロン ニュートラル

エルロンが中立位置であることを確認します。機種によっては、エルロンの入力が原因でスピンの回復が遅れる場合があります。




3. ラダー オポジット

スピンの旋転方向とは反対側のラダー(右)を蹴ります。ただし、反対側のラダーとは、踏んでいるラダーを入れ替えることでも、主翼の上がった側でもありません。必ずエンジンカウルの上部を見て、旋転方向を目視で確認します。

また、ラダーは「押す」のではなく、「蹴る」です。蹴ることで空気の反発が生じ(Dynamic Surge)、スピンを止める力を最大限にします。うちわでゆっくりと扇いでも風は起きませんが、速く動かせば風が起きることと同じです。

スピンの旋転速度が少なくとも遅くなるまで、「オポジット ラダーエレベーター バック」を維持します。




4. エレベーター アンロード (ニュートラル、センター)

3によるラダー操作で、スピンの旋転速度が少なくとも遅くなるまで待ち、その後エレベーターを中心位置に素早く戻します。私はアンロード(荷重を減らす)という表現と操作を好みますが、ニュートラルでもセンターでも好みでよいと思います。

エレベーターの効果が大きな曲技飛行機では中立位置で十分ですが、CessnaやPiperなどの飛行機では、ストールを回復させる位置(多くの場合は最前方)まで素早く戻します。中立位置では不十分であることが多いので、実施前に経験豊富な飛行士にご確認ください。



以上が、スピン リカバリーの手順、P A R Eです。PとAを同時に行っても問題はありませんが、RとEは入れ替えてはいけません。また、機体性能と旋転の加速の程度により、RとEの間には旋転速度の減速するまで待つことが少なくとも必要です。これらを見逃すと、スピンの回復が遅れたり、回復しないことも十分に考えられますので、ご注意ください。






「スピンは手足を離せば止まる。飛行士の操作がスピンを悪化させる可能性もあり、手足を離すことは有効なスピンの回復方法だ。」


まれにこんな意見も聞かれますが、どうなのでしょうか。

これはYesであると同時にNoでもあり、スピンの経験が少なく、Fully Developed Spinの領域までの経験がない方に聞かれる意見です。すでに解説したように、手足(操縦桿とラダーペダル)による入力を止めることでスピンへの移行を防げるのは、インシピエント スピンの段階までです。それ以上の、フリー デベロップト スピンにまで発展してしまえば、飛行機はその安定性からスピンを継続していますから、手足を離しただけでは確実な停止は期待できません。


ただ実際のところ、曲技飛行を安全に行えるように設計された曲技飛行機では、Hands off recovery(Beggs Mueller Method)と呼ばれる、操縦桿から手を離した状態でも自動的に回復しますが、少なくとも旋転とは反対方向へのラダーの入力は必要です。また、反応するまでにおよそ2 - 3秒の時間がかかり、その間の高度の低下は当然大きくなります。

機体の性能を確認していただくため、訓練でHands off recoveryをお見せすることもありますが、私はこれを最終的な目標とは認めません。操縦を最後まで(または脱出の決心するまで)続けることは飛行士としての義務です。消極的な手法は操縦操作ですらないと私は考えます。

Spinを考える 3へ続く

2014年11月30日日曜日

Spinを考える 1



前回のBlogで、「スピン リカバリーの基本操作であるPAREより、P A/E R Eを用いることの利点は何なのか?」という意見をいただきました。同時に、「そもそも、なぜP A R Eなのか」という声も聞かれましたので、この機会にSpinのしくみやRecovery Procedureについて考えてみたいと思います。




Extra 300Lの操縦席。中央にエルロンとエレベーターを操作する操縦桿、左前方と右前方にはラダーを操作するラダー ペダルが一つずつ、そしてエンジン出力を操作するスロットル レバーが左側にあります。




Blog上で説明することは難しいのですが、いつも行っている座学の手法で試してみます。一緒に参加してくれるのはミニPitts S-2S(?)です。

実際にスピンを体験したことのない方もいらっしゃるかもしれませんが、学科講習でスピンを学んだことはあると思います。まずは、スピンをおさらいしてみましょう。




飛行進行方向と相対風の関係

字が汚くて申し訳ありません。飛行機や滑空機の飛行を支えるのは相対風です。これがない場合は、ヘリウムガスや反重力エンジン(?)を使用するなど、別の手段を考えなくてはいけません。




このように迎角(AOAまたはα)を変化させて、揚力の大きさを調整して飛行します。




AOA(迎角)とCLの関係を示したグラフ。臨界迎角を越えた領域が失速(ストール)と呼ばれる部分です。




揚力(L)を計算する方程式です。上のグラフで示されるように、迎角を変化させると、CL(揚力係数)が変化し、結果揚力が増減することになります。同様に、速度(V)や翼面積(S)を変化させても揚力は増減することもわかります。


〈注意〉 航空力学上の失速(ストール)とは、迎角が臨界迎角を越えた状況のことです。失速速度以下の飛行を指していることでないことにご注意ください。また、音速を超えた飛行で発生する超音速失速はまた別の現象ですので、これについては超音速飛行の専門家にお問い合わせください。




ヨーの動き


飛行機の動きには、ピッチ、ロール、ヨーの3つの動きがあります。ヨーはラダー ペダルを介して行い、左右に機首を振る運動を指します。スキッド(外滑り)とも呼ばれる運動です。




では、ストールとヨーを見直したところで、本題であるスピンを行ってみましょう。スピンを行うには、ストールとヨーの2つの運動が必要です。まずは飛行機をストールさせます。




続いてヨーです。スピンさせたい方向のラダー ペダルを踏み、ヨーイングを発生させます。




世の中には、スピンに入りやすい機体と入りにくい機体がありますが、ラダーに十分なヨーイングを発生させる力があれば、飛行機は踏んだラダー ペダルの側にスピンに入ります。ラダーの力が不十分な場合は、パワーを入れてP ファクターを利用したり、エルロンによるアドバース ヨーを用いるなどもいい解決法です。




スピン中、操縦桿を最後方に引き続け、ラダー ペダルを踏み続けていれば、機体はピッチング、ローリング、ヨーイングの3つの動きを合成しながらスピンを続けます。安定してスピンが旋転している状態(Fully Developed Spin)の降下率は、このような小型機でおよそ6,000 ft / 分と言われます。




三軸の動きを同時に行われ、また基本となるスピンであるとして、他と区別するためにノーマル スピンと呼ばれます。さらに正確には、ポジティブ(+)側にストールしていますから、アップライト (またはポジティブ) ノーマル スピンと呼ぶべきでしょう。




荷重の方向による分類 (ポジティブ、またはアップライト)
最も基本的なスピンです。



過去に「スピンは両翼失速か、それとも片翼失速か」と語る方もいらっしゃり、それについて議論をしたことがありました。実際はどうなのでしょう?

アメリカでは「スピンは一方の主翼がもう一方よりも大きく失速しているとき」と教科書に書かれていますから、「両翼失速」がFAAの方針なのでしょう。対して、他国では「片翼失速である」と教育していると耳にします。

この双方の教育方針を見て、「両翼失速か?それとも、片翼失速か?」と疑問を持つことも理解できるのですが、私のこれまでの経験から言いますと、高迎角でストールしていればスピンへの移行を助けることも事実であり、同時に、臨界迎角以下の、浅い迎角でもスピンが起こることもまた事実です。つまり、失速しているかしていないかに関わらず、十分なヨーイングと迎角さえあればスピンは発生し、「両翼失速が片翼失速か?」という問題なら、答えは「どちらも有り得る」で、さらに言えば「ストールは必要な条件ではなく、迎角とヨーイングが同時に存在していること」ではないでしょうか。

これは先の「ストール + ヨー = スピン」という記述に反する意見ですが、本来は「迎角 + ヨー = スピン」であるべきではないか?というのが、私の考えです。ただ、一般的な、常識的な教育方針を貫くという考えから、インストラクターとしては、「ストール + ヨー = スピン」と一貫して教育するようにしています。




引き続き、荷重の方向による分類 (ネガティブ、またはインバーテッド)




スピン モードの変化によるスピンの分類 
その1 ノーマル スピン (写真はアップライト ノーマル スピン)


先にも伝えましたが、スピン中、操縦桿を最後方に引き続け、ラダー ペダルを踏み続けていれば、機体はピッチング、ローリング、ヨーイングの3つの動きを合成しながらスピンを続け、ノーマル スピンと呼ばれる状態になります。




スピン モードの変化によるスピンの分類
その2 アクセレレーテッド スピン、またはスティープ スピン (写真はアップライト アクセレレーテッド スピン)


発生したスピン(ノーマル スピン)の途中で、もしエレベーターやエルロン、パワーを操作すると何が起こるのでしょうか。ストール中やスピン中であっても、空力的な作用が得られる限り、操縦系統は引き続き効果を発生させますから、エレベーターやエルロンによって機体の姿勢やスピンの旋転速度を変化させることができます。またパワー操作によっても、プロペラの効果(ジャイロの摂動やプロペラ後流など)でスピンのモードが変化します。

ここでのアクセレレーテッド スピンとは、スピン中にエレベーターをアンロードさせ、迎角を減らし、機軸をフライト パスに近づけることで、スピンの旋転速度を速めたものを指します。真下に向かって垂直にスピンしているように見えることから、エレクト スピンとも呼ばれます。これは、フィギュアスケーターが両手を体に近づけることで旋転が速くなる(フィギュアスケーター イフェクト)ことと同じです。ノーマル スピンで見られた、ピッチングやヨーイングの動きが減り、ほぼローリングのみの運動となっていることが特徴です。また、迎角が小さいため、速度と降下率も速くなります。

ジャイロの摂動を用いることで、方向次第ではパワーを用いてアクセレレーテッド スピンにすることも可能です(Lycoming Engine装備機では、アップライトでは右側、インバーテッドでは左側)。ウィングスパンの比較的短い曲技飛行機は異なった動きを見せますが、Grob G-115CやNorth American T-6などではエルロンをスピンと反対側(Anti-roll Aileron)とすることで行えます。




スピン モードの変化によるスピンの分類
その3 フラット スピン (写真はアップライト フラット スピン)


ノーマル スピンの約45度の迎角より大きな迎角で行われるスピンをフラット スピンと呼びます。映画「Top Gun」で広く知られることになったフラット スピンですが、コンピューターの力を借りて飛行する戦闘機などと異なり、C.G.の位置さえ守っていれば、曲技飛行機はプロペラによるジャイロの摂動とスラストの効果を利用することで、安全に行えます(Lycoming Engine装備機では、アップライトでは左側、インバーテッドでは右側)。




おさらい


まとめますと、アップライトとインバーテッドそれぞれで3種類のモードがあり、計6種類のスピンがあることになります。誤解を生みやすいところですが、どれもがノーマル スピンからモードを変えて派生したものであって、それぞれスピンであることには変わりありません。

さらに加えるとすると、アップライトからインバーテッド、またはインバーテッドからアップライトなど、荷重方向を変化させるクロスオーバー スピンも訓練科目として設けていますが、やはりスピンの延長であることは一緒です。

一般的な通常訓練では、行ってもアップライト ノーマル スピンまでで、CessnaやPiperなどの飛行性能上はそれで十分でしょうが、飛行性能のエンベロープ一杯に使って飛行する曲技飛行では、スピンでの挙動を熟知し、どの状態のスピンからでも回復操作が自然と行えるようになっておく必要があります。


Spinを考える 2 に続く