2014年11月30日日曜日

Spinを考える 1



前回のBlogで、「スピン リカバリーの基本操作であるPAREより、P A/E R Eを用いることの利点は何なのか?」という意見をいただきました。同時に、「そもそも、なぜP A R Eなのか」という声も聞かれましたので、この機会にSpinのしくみやRecovery Procedureについて考えてみたいと思います。




Extra 300Lの操縦席。中央にエルロンとエレベーターを操作する操縦桿、左前方と右前方にはラダーを操作するラダー ペダルが一つずつ、そしてエンジン出力を操作するスロットル レバーが左側にあります。




Blog上で説明することは難しいのですが、いつも行っている座学の手法で試してみます。一緒に参加してくれるのはミニPitts S-2S(?)です。

実際にスピンを体験したことのない方もいらっしゃるかもしれませんが、学科講習でスピンを学んだことはあると思います。まずは、スピンをおさらいしてみましょう。




飛行進行方向と相対風の関係

字が汚くて申し訳ありません。飛行機や滑空機の飛行を支えるのは相対風です。これがない場合は、ヘリウムガスや反重力エンジン(?)を使用するなど、別の手段を考えなくてはいけません。




このように迎角(AOAまたはα)を変化させて、揚力の大きさを調整して飛行します。




AOA(迎角)とCLの関係を示したグラフ。臨界迎角を越えた領域が失速(ストール)と呼ばれる部分です。




揚力(L)を計算する方程式です。上のグラフで示されるように、迎角を変化させると、CL(揚力係数)が変化し、結果揚力が増減することになります。同様に、速度(V)や翼面積(S)を変化させても揚力は増減することもわかります。


〈注意〉 航空力学上の失速(ストール)とは、迎角が臨界迎角を越えた状況のことです。失速速度以下の飛行を指してないことにご注意ください。また、音速を超えた飛行で発生する超音速失速はまた別の現象ですので、これについては超音速飛行の専門家にお問い合わせください。




ヨーの動き


飛行機の動きには、ピッチ、ロール、ヨーの3つの動きがあります。ヨーはラダー ペダルを介して行い、左右に機首を振る運動を指します。スキッド(外滑り)とも呼ばれる運動です。




では、ストールとヨーを見直したところで、本題であるスピンを行ってみましょう。スピンを行うには、ストールとヨーの2つの運動が必要です。まずは飛行機をストールさせます。




続いてヨーです。スピンさせたい方向のラダー ペダルを踏み、ヨーイングを発生させます。




世の中には、スピンに入りやすい機体と入りにくい機体がありますが、ラダーに十分なヨーイングを発生させる力があれば、飛行機は踏んだラダー ペダルの側にスピンに入ります。ラダーの力が不十分な場合は、パワーを入れてP ファクターを利用したり、エルロンによるアドバース ヨーを用いるなどもいい解決法です。




スピン中、操縦桿を最後方に引き続け、ラダー ペダルを踏み続けていれば、機体はピッチング、ローリング、ヨーイングの3つの動きを合成しながらスピンを続けます。安定してスピンが旋転している状態(Fully Developed Spin)の降下率は、このような小型機でおよそ6,000 ft / 分と言われます。




三軸の動きを同時に行われ、また基本となるスピンであるとして、他と区別するためにノーマル スピンと呼ばれます。さらに正確には、ポジティブ(+)側にストールしていますから、アップライト (またはポジティブ) ノーマル スピンと呼ぶべきでしょう。




荷重の方向による分類 (ポジティブ、またはアップライト)
最も基本的なスピンです。



「スピンは両翼失速か、それとも片翼失速か」と語る方もいらっしゃり、過去にそれについて議論をしたことがありました。実際はどうなのでしょう?

アメリカでは「スピンは一方の主翼がもう一方よりも大きく失速しているとき」と教科書に書かれていますから、「両翼失速」がFAAの方針なのでしょう。対して、他国では「片翼失速である」と教育していると耳にします。

この双方の教育方針を見て、「両翼失速か?それとも、片翼失速か?」と疑問を持つことも理解できるのですが、私のこれまでの経験から言いますと、高迎角でストールしていればスピンへの移行を助けることも事実であり、同時に、臨界迎角以下の、浅い迎角でもスピンが起こることもまた事実です。つまり、失速しているかしていないかに関わらず、十分なヨーイングと迎角さえあればスピンは発生し、「両翼失速が片翼失速か?」という問題なら、答えは「どちらも有り得る」で、さらに言えば「ストールは必要な条件ではなく、迎角とヨーイングが同時に存在していること」ではないでしょうか。

先の「ストール + ヨー = スピン」という記述に相反する意見ですが、本来は「迎角 + ヨー = スピン」であるべきではないか?というのが、私自身の個人的な考えです。ただ、他のインストラクターとの整合性を保ち、一貫した教育を提供することを目的に、持論を避け、私は「ストール + ヨー = スピン」と一貫して教育するよう心掛けています。




引き続き、荷重の方向による分類 (ネガティブ、またはインバーテッド)




スピン モードの変化によるスピンの分類 
その1 ノーマル スピン (写真はアップライト ノーマル スピン)


先にも伝えましたが、スピン中、操縦桿を最後方に引き続け、ラダー ペダルを踏み続けていれば、機体はピッチング、ローリング、ヨーイングの3つの動きを合成しながらスピンを続け、ノーマル スピンと呼ばれる状態になります。




スピン モードの変化によるスピンの分類
その2 アクセレレーテッド スピン、またはスティープ スピン (写真はアップライト アクセレレーテッド スピン)


発生したスピン(ノーマル スピン)の途中で、もしエレベーターやエルロン、パワーを操作すると何が起こるのでしょうか。ストール中やスピン中であっても、空力的な作用が得られる限り、操縦系統は引き続き効果を発生させますから、エレベーターやエルロンによって機体の姿勢やスピンの旋転速度を変化させることができます。またパワー操作によっても、プロペラの効果(ジャイロの摂動やプロペラ後流など)でスピンのモードが変化します。

ここでのアクセレレーテッド スピンとは、スピン中にエレベーターをアンロードさせ、迎角を減らし、機軸をフライト パスに近づけることで、スピンの旋転速度を速めたものを指します。真下に向かって垂直にスピンしているように見えることから、エレクト スピンとも呼ばれます。これは、フィギュアスケーターが両手を体に近づけることで旋転が速くなる(フィギュアスケーター イフェクト)ことと同じです。ノーマル スピンで見られた、ピッチングやヨーイングの動きが減り、ほぼローリングのみの運動となっていることが特徴です。また、迎角が小さいため、速度と降下率も速くなります。

ジャイロの摂動を用いることで、方向次第ではパワーを用いてアクセレレーテッド スピンにすることも可能です(Lycoming Engine装備機では、アップライトでは右側、インバーテッドでは左側)。ウィングスパンの比較的短い曲技飛行機は異なった動きを見せますが、Grob G-115CやNorth American T-6などではエルロンをスピンと反対側(Anti-roll Aileron)とすることで行えます。




スピン モードの変化によるスピンの分類
その3 フラット スピン (写真はアップライト フラット スピン)


ノーマル スピンの約45度の迎角より大きな迎角で行われるスピンをフラット スピンと呼びます。映画「Top Gun」で広く知られることになったフラット スピンですが、コンピューターの力を借りて飛行する戦闘機などと異なり、C.G.の位置さえ守っていれば、曲技飛行機はプロペラによるジャイロの摂動とスラストの効果を利用することで、安全に行えます(Lycoming Engine装備機では、アップライトでは左側、インバーテッドでは右側)。




おさらい


まとめますと、アップライトとインバーテッドそれぞれで3種類のモードがあり、計6種類のスピンがあることになります。誤解を生みやすいところですが、どれもがノーマル スピンからモードを変えて派生したものであって、それぞれスピンであることには変わりありません。

さらに加えるとすると、アップライトからインバーテッド、またはインバーテッドからアップライトなど、荷重方向を変化させるクロスオーバー スピンも訓練科目として設けていますが、やはりスピンの延長であることは一緒です。

一般的な通常訓練では、行ってもアップライト ノーマル スピンまでで、CessnaやPiperなどの飛行性能上はそれで十分でしょうが、飛行性能のエンベロープ一杯に使って飛行する曲技飛行では、スピンでの挙動を熟知し、どの状態のスピンからでも回復操作が自然と行えるようになっておく必要があります。


2014年11月28日金曜日

P. A/E. R. E.



以前にも、イタリアからわざわざ訓練に来ていただいたPaoloさん。今回は息子さんのアメリカ旅行と予定を合わせていらっしゃいました。お元気そうですね。




前回の訓練の後、Extra 300LPを購入し、曲技飛行を楽しんでいるそうです。おめでとうございます。しかし、単独となると、曲技飛行はともかく、Spin、特にInverted Spinまでは行うことがなく、再訓練の必要性を感じたということでした。では、この機会に苦手な部分を克服していきましょう。




早朝は5 - 6度Cほどしかありませんが、日が昇ると急に暖かくなります。青空がまぶしい。




UprightとInvertedのそれぞれの、Normal、Accelerated (Elevator and/or Power)、Flatと、Modeを変えて、飛行機がどのような挙動をするのかを体験し、適切な回復操作を身につけます。




元は自動車のアマチュア レーサーだったPaoloさん。乗り物を操作する技術は見事です。




Spin Rocoveryの手順で有名な「P. A. R. E」は、Elevator Accelerated Spinからの回復で手順を間違えることがあります。私も常々何かいい解決方法はないものか?とは思っていました。




「Yuichi、このSpin Recoveryの方法はどうだろう?」




Paolo: P. A. R. Eの代わりに、P. A/E. R. Eを使ってみようと思うんだ。

なるほど、いいアイデアですね。理論上、問題はないと思います。むしろ、混乱する可能性が皆無で、いいのではないでしょうか。座学での伝え方を研究してみます。




〈動画〉 Aerobatic Training 2014年11月27日

音声ジャックが故障中で無音でしたので、セリフは字幕にして、さらに音楽(菅野 よう子、「Ghost in the Shell サウンドトラック」より)を加えてみました。




次の練習科目はOutside Maneuversをいくつか行います。OutsideのHalf Loop Upと、PushからのHammerheadsを試してみましょうか。




今年のイタリアでの競技会で、Sportsman Categoryに参加してみたいとのことです。よい成績が得られることでしょう。健闘を祈ります。

2014年11月20日木曜日

尾輪式飛行機講習会のお知らせ



静岡県航空協会と日本女性航空協会の皆様のご協力で、尾輪式飛行機講習会を行わせていただけることになりました。予定は現在のところ以下の通りです。


   日時
2015年2月21日(土) 13:00 - 17:00 座学講習
2015年2月22日(日) 09:00 - 17:00 同乗訓練


   場所
静岡県静岡市清水区蒲原 富士川滑空場


   参加資格
静岡県航空協会の会員の方。
同乗訓練は先着順で最大4名まで。使用する機体でPICとして飛行を認められた方に限らせていただきます。


   講習内容
尾輪式飛行機が存在する訳は?
飛行前点検での注意点
エンジンスタートからエンジンストップまで、尾輪式飛行機に求められる事とは?
離陸滑走とレフト ターニング テンデンシー
三点着陸と接線着陸
グラウンドループはなぜ起こる?
安全な飛行を求めて

その他、新たなトピックの希望も承っております。お待ちしております。


   お問い合わせ
JWAA 日本女性航空協会 理事長 鐘尾 みや子 jwaa385@gmail.com


   講習についての質問や希望など
髙木 雄一 airtango@hotmail.com までどうぞ。


   LINK
静岡県航空協会ホームページ: http://fujikawaglider.main.jp/
ブログ「富士川で飛んでます!」: http://fly-fujikawa.jugem.jp/

2014年11月19日水曜日

King Cityへようこそ


日本の曲技飛行仲間の相京さんと、彼の同僚の堀内さんが訓練にいらっしゃいました。お2人は海上保安庁のパイロットをされていて、日々日本の海と空の安全を守っています。(掲載許可承諾済)




ブリーフィングを終え、Pitts S-2Cの暖機運転を。この飛行機に乗るのもほぼ3ヶ月ぶりです。




今日はとてもきれいに晴れ上がりました。




相京さんは、2012年の第3回全日本曲技飛行競技会と、2013年の第4回競技会に出場され、昨年の第4回競技会ではPrimary Categoryで見事優勝されました。




S-Turnでウォームアップ中。きれいなCoordinationです。




曲技飛行の後は離着陸を。もう大丈夫そうですね。




on Downwind 

Pitts Specialは滑空性能に劣ることで知られますが、可能な限り滑走路への滑空範囲内に留まる努力をすることは飛行士としての義務です。この飛行機のDownwindの目安として、下側主翼の翼端と滑走路の関係を使うと便利です。




次は堀内さんがExtra 300Lで訓練に向かいます。






Extra 300Lの挙動にも慣れてきたようですね。それでは、今日の練習科目を行ってみましょう。




〈動画〉エアロバティック フライト トレーニング 2014‐11‐17




操縦訓練生の方が初ソロクロスカントリーでKing Cityにいらっしゃいました。曲技飛行に誘う相京さん。私からもお誘いします。




昼休みの後、T‐6の体験搭乗へ。実は、本日よりTutima Academyでは、正式にT-6の体験搭乗が可能になりました。




Steep Turn!




伊達 政宗!海上保安庁の仙台航空基地のワッペンを貼っていただきました。大切にします。


あっという間の7日間でした。冬の厳しい天候での飛行となることでしょうが、どうぞお気をつけて。これからも日本の安全をよろしくお願いします。

2014年11月9日日曜日

Last Run


さよならヒューストン


Wings Over Houstonの次はCO州Denverへ向かいます。本来ならCA州へ直接帰るところですが、Challenger IIIをしばらく現地の博物館に展示するそうです。




寒冷前線が接近中。一帯は雲が低いです。3,000 ft AGLから4,000 ft AGLの高度で、雨や雲を避けて飛行を続けます。




追い風の影響で、予想よりも距離を稼ぐことができました。TX州Childress Municipal Airport(KCDS)で燃料補給。雨が降り始めました。すぐに出発です。




お腹が空いたので昼食を。この飛行機はRoll方向の静安定が負、Pitch方向の静安定は中立。一時たりとも操縦桿から手が離せず、長距離飛行には疲れる飛行機です。




寒冷前線の真下を通過中。ここの天候は回復しましたが、目的地の天候が悪化しています。外気温度と雨に気をつけながら、先を急ぎます。




雲の下をくぐって、CO州Centennial Airport(KAPA)に到着。先に到着していた仲間が迎えてくれました。気温は+3度C、雪の匂いのする空気は、千歳の航空整備学校時代を思い出させます。




最後の数Milesの悪天候を乗り切った安堵感。Senecaのパイロットを務めたチャドさんは今年でTeam Oracleを離れ、Corporateの仕事へ移ります。GAからAirlineまで幅広い経験を持つ彼は、的確な状況判断を下し、悪天候でも飛行を預けられる仲間です。




夜10時。格納庫へ戻って最後の仕事にかかります。ここから20 Milesほど離れた博物館へトレーラーで陸送です。






深夜まで待って、2車線の道を塞いで移動します。気温-1度C。寒い。




パトカーも警備に加わり、ゆっくりと進みます。




Wings Over The Rockies Air & Space Museum(http://wingsmuseum.org/)に到着し、外した部品を再取り付けします。勝手の判らない私は見ているだけ。




グライダーからF-104、B-2、ファンの方が作ったStar WarsのX-Wingの5/8サイズの模型までありました。少し見て回りたいところですが、疲れと眠さが限界です。お休みなさい。


翌朝。TVをつけたら、飛行機の陸送の話題がニュースになっていました。


 PLANE MOVED THROUGH DENVER OVERNIGHT























私のTeam Oracleのサポート活動はこれで終わりです。来年度は新たな仲間が加わるということで、私も一安心。後は彼らに引き継いで、私は再びフライト インストラクターの職務に戻ります。どうぞよろしくお願いします。