2014年12月18日木曜日

Spinを考える 3

「曲技飛行も危険回避の技術も、天性で行えることなど有り得ない。全ては訓練を繰り返して得られる、貴重な技術だ。」 - K.E談、T飛行学校、主任教官






スピン リカバリーの手順であるP A R Eは、語呂もよく覚えやすい手順です。操作はP A R Eの順序で、冷静に、体が自然に反応するよう、スピン トレーニングを繰り返すことが効果的です。

P A R Eはスピンを確実に停止させるという要求に答えるとても有効な回復操作ですが、なぜこの順にあるのでしょうか。



1. パワー バックが第一にある理由

何らかの原因で、飛行機が通常飛行から逸脱した場合、以下の6つの状況のどれかへと移行します。


(1) 水平飛行

(2) 上昇姿勢からの弾道飛行

(3) 降下やスティープ スパイラル

(4) ストール 〈失速)

(5) スピンやスナップ ロールなどのオート ローテーション (自転運動)

(6) タンブル (機体の左右軸周りに、機首と尾部が回転する運動。またはそれに近い運動。ナイフエッジ スピンやエンドー タンブルなどを指す。)


〈参考〉 ナイフ エッジ スピンの動き



ナイフエッジ スピンには「スピン」という名前が付いていますが、オートローテーションではないため、実際はスピンではありません。難易度が比較的低いのはダウンラインを降下しながら行うもので、機首をほぼレベルに保ったまま、左右軸周りにノーズとテールが追いかける動きをします。

運動エネルギーの消費が大きく難易度が高いものの、アップライン上で上昇しながら行うことも可能です。どちらも、レフト ラダーを保持してエレベーターを押し、ジャイロの摂動による左へのヨーイングを利用して行います。



〈参考〉 エンドー タンブルの動き



ナイフエッジ スピンと操作も運動もほぼ同じですが、バーティカル アップラインやバーティカル ダウンライン以外の方向へ行うナイフ エッジ スピンを、一般的にエンド オーバー エンド タンブル(通称 エンドー タンブル)と呼びます。図では水平方向に、右横へ向かって飛行する様子を描きました。




〈動画〉 エンド オーバー エンド タンブル (エンドー タンブル)



プロペラを回転させて推力を得る飛行機では、推力を得ると同時に、回転するプロペラからの様々な影響を受けています。ご存知の通り、右回転するプロペラを装備する飛行機は、1. ジャイロの摂動、2. トルク、3. スリップ ストリーム、4. P ファクターなどの効果により、レフト ターニング テンデンシー(飛行機を左へ旋回させようとする性質)を受けています。

(1)の水平飛行に移行した場合はそれ以上の回復操作は必要ありませんし、(2)の上昇や(3)の降下やスティープ スパイラルからの回復操作は今更説明も必要もないでしょう。

(4)のストールでパワー バックを行うかどうかは、飛行士の制御下にあるか、そうでないかで意見が分かれます。何らかの原因で、状況認識も行えないほど危機的な状況になれば、(5)のスピンへの移行の可能性を最小限に留めるためにも、パワー バックが効果的です。

(5)のオートローテーションに陥り、回転するプロペラによってヨーイングが発生している、または高迎角の状態を保っている場合は、パワーを減らすことでスピンの回復を助けることができます。

(6)のタンブルとはジャイロの摂動によるヨーイングを補助として用いるマニューバーですから、パワーを減らすことで自動的に(1)から(5)のどれかに移行します。

以上のことから、パワー バックはスピンを含め、状況認識を維持できないような危機的な場合でも、状況のそれ以上の悪化を防ぐ効果があると言えます。


また、これはPittsやExtraなどの高性能曲技飛行機で経験できることですが、「高出力 + 高迎角 + 低速度」で見られるレフト ターニング テンデンシーが、さらに迎角が高い「高」高迎角で、かつ速度が極低速域になる通称「ハリヤー フライト」や、マイクロ ループの遂行中は、スリップ ストリームが右側の胴体や垂直尾翼に当たり、一時的にライト ターニング テンデンシーを起こします。スピンの回転方向によっては、パワー バックなしでは回復が難しくなります。




通常の高迎角の飛行でのスリップ ストリームの流れ 1




通常の高迎角の飛行でのスリップ ストリームの流れ 2




「高」高迎角の飛行でのスリップストーリームの流れ 1




「高」高迎角の飛行でのスリップ ストーリームの流れ 2

非常に迎角が高い「高」高迎角の飛行では、スリップ ストリームの下部が垂直尾翼の右側に当たり、右へのヨーイングを発生します。



2. エルロンを中立に保つのはなぜか

機種とスピンの状況によっては、エルロンの操作(in aileron / out aileron、またはpro-roll aileron / anti-roll aileronなどと表現)がスピンからの回復を助けることもあるのは事実ですが、逆にエルロンの入力がスピンからの回復を遅らせる機種があることもまた事実です。

飛行中に、突然何らかの原因で意図しないスピンに陥り、瞬時の回復が求められるようなときに、エルロンの効果を試すような余裕はまずありません。危機的な状況ですから、ここはテスト パイロットにならずに、素直に回復操作を行うことが懸命です。




〈動画〉 アップライト、エルロン アクセレレーテッド (プロ ロール エルロン) スピン

上の映像は、左へのアップライト スピンで、左にエルロンを加えてモードの変化を試したものです。少し判り辛いところでずが、映像の0:34と0:36で、スピン時のヨーイングが減少して、スピンからスティープ スパイラル気味な運動へと変化しています。これはエルロンによるアドバース ヨーが、スピン時のヨーイングを打ち消しているためと考えられます。

先にも伝えたように、スピン中の機体の挙動は千差万別です。エルロンの入力のためにスピン停止後に機体がロールし、即座に上昇姿勢に移行できないことも危惧されますから、この操作がスピンを早期に回復させる手段として使えることは実用的ではないでしょう。

どの機種で飛行していても、どのレベルの操縦技量の飛行士であっても、常に確実なスピンからの回復を求めるためには、やはりエルロンは中立であるべきと考えます。



3. オポジット ラダーの操作をエレベーター操作の前に行う理由は?




スピン時の相対風の方向



スピンからの回復を確実にするためには、ラダーの効果が最大限にする努力が必要です。対気速度や迎角などが同じなら、揚力は翼面積に比例しますから、ラダーの有効面積が広ければラダーの効果も大きくなります。ただ残念ながら、スピン中の状態では、ラダーの全ての表面が有効利用できるわけではありません。アップライト スピンでは胴体下側から相対風が吹いているために、エレベーターの上側のラダーは遮られて効果を失い、エレベーターの下側のラダーのみが有効部分となります。




Pitts S-2Bのラダーとエレベーターの位置関係 1

エレベーターが中立位置では、ラダーのおよそ2/3がエレベーターでブロックされています。実際のラダーの有効面積はわずか1/3です。




Pitts S-2Bのラダーとエレベーターの位置関係 2

エレベーターを上げることにより、ラダーの有効面積が1/2近くにまで増加します。このことからも、ラダーの操作時はエレベーターはフル アップ(ポジティブ ストール時の位置)のままとしていることが適切です。



では、Piper ArrowやPiper Tomahawkなど、エレベーターが垂直尾翼上部に取り付けられている「T-tail」の飛行機ではどうなのでしょうか。

この場合はエレベーターがアップでもニュートラルでも、ラダーの有効面積は変化しないように思えますが、それでもラダーとエレベーターの順序はしっかりと守らなくてはなりません。なぜなら、スピン中にエレベーターを先にアンロードさせると、前々回の「スピンを考える 1」に記述したように、ノーマル スピンからアクセレレーテッド スピンへとモードが変化し、スピン リカバリーに不利となるためです。



〈参考〉 スピンからの回復において、エレベーターをラダーの前に操作した場合のモード変化



このように、機首姿勢は深くなるために速度は増加し、高度低下が激しくなります。また、それまでの「ピッチング + ローリング + ヨーイング」の複合運動から、ほぼ「ローリング」のみの動きへ変化し、そもそものヨーが少ないためラダーが有効的な操縦系統とならず、スピン停止までの時間がかかります。

また力学的に見れば、存在するアームも少ないために、ラダーによって発生するモーメントも少なく、効果的な回復とはならないとも説明できます。

エレベーター操作時のもう一つの注意点は、「スピンの回転が少なくとも遅くなるまで、エレベーターのフル アップを維持する」ことです。これを確認せずにエレベーターをアンロードさせると、エレベーター アクセレレーテッド スピンへ再びモードが変化し、スピンが再加速します。特に、フーリー デベロップト スピンの領域の経験が少ない曲技飛行競技者に陥り易い失敗ですので、競技飛行ばかりにとらわれず、定期的な再確認をお勧めします。


〈結論〉 スピン リカバリーは「P A R E」の順序で、落ち着いて、正しく行いましょう。



「ストール領域では、迎角が高くなれば揚力係数は減少し、迎角が低くなれば揚力係数は増加する。スピン時はストール領域にあるにもかかわらず、エルロンが通常通りに作用するのはなぜか?」



CL(揚力係数)及びCD (抗力係数)と、AOA (迎角)との関係 



教科書に見られる揚力曲線を思い出せば、これは確かに不思議な現象です。スピン中であっても左にエルロンを動かせば、飛行機はやはり左にロールし、右へ動かせば右へロールします。私たちは当然のようにこの現象を受け入れていますが、なぜ逆方向にロールしないのでしょうか?

この答えは、スピン中の迎角は上のグラフよりもさらに高いところにあるためと考えられます。一般的な揚力曲線は上の通りですが、多くは20度から25度辺りまでで、それ以上は省略されています。ではそれ以上の領域はどのようになっているのでしょう?




180度までの迎角のCL(揚力係数)とAOA(迎角)の関係を描いた図



私は科学者ではありませんから、私が伝えられることは実際の飛行で見られた現象のみです。その現象から推測するに、スピン中の迎角はこのグラフでの20度以降の領域なのでしょうか。ノーマル スピンではエルロンは通常通りの方向へ作用することからも、確かに納得できる仮説です。まれに、フラット スピンで主翼が左右にロールを繰り返すことが見られますが、これは迎角が45度を超えた領域で行われ、再び「ロール ダンピングの喪失」があるからでしょう。


故 本田 宗一郎 先生は、自動車レースを「走る実験室」と表現したそうです。先生の言葉をお借りすると、曲技飛行はまるで「空飛ぶ実験室」です。これからもいろいろな発見があるはずです。


参考: Airfoils at High Angle of Attack http://www.aerospaceweb.org/question/airfoils/q0150b.shtml


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