2015年1月23日金曜日

Spinを考える 5




「P A R Eの手順を守れば、スピン リカバリーは必ず行えます。(いや、例外もあるのだけれど・・・。)」 - Y. Tの悩み、米国 西海岸 某所在住



 インシピエント スピンや、アップライト ノーマル スピンまでのスピン トレーニングを行うなら、P A R Eを用いてのリカバリーに疑問を持つことはないでしょうが、さらにモード変化を行って、エレベーターを用いてのアクセレレーテッド スピンを行うと、P A R Eの問題点に当たります。






このP A R Eの問題をどう受け止めるかは飛行教官次第でしょうから、問題に気付かない方もいれば、気付いても深く受け止めない方もいらっしゃるでしょう。手順を工夫して、「ノーマル スピンではP A R E。エレベーター アクセレレーテッドの場合はE + P A R Eで行う。」とする方が一般的のようです。すると、「P A R Eでスピン リカバリーが行える」という言葉に矛盾が生じ、訓練毎に悩まされることになります。

ノーマル スピンでも、エレベーター アクセレレーテッド スピンでも使える、「これさえ守って行えば、どのようなスピンでもリカバリーも行える」という、都合のよい方法はないものでしょうか・・・




「Yuichi、このスピン リカバリーの方法はどうだろう?」




Paolo: P A R Eの代わりに、P A/E R Eを使ってみようと思うんだ。

なるほど!それが答えですね。ありがとう、Paoloさん。



P A R EでのAでは、エルロン ニュートラル(またはセンター)ですが、ここをA/Eとして、エルロンとエレベーターを同時に操作して、「センター アンド バック」などと操作する案です。

つまり・・・






スピン中に操縦桿がどの位置にあったとしても・・・


A/Eの時点で操縦桿をセンター アンド バックの位置に戻すことで、操縦桿がどの位置にあったとしても、またそれがアップライト フラット スピン、アップライト エルロン アクセレレーテッド スピン、アップライト パワー アクセレレーテッド スピン、アップライト エレベーター アクセレレーテッド スピンなどのどれであったとしても、アップライト ノーマル スピンに移行し、スピン リカバリーを効果的に行うことができます。



〈まとめ〉 P A/E R Eを使用してのアップライト スピンからのリカバリー

Power (パワー) バック
Aileron/Elevator (エルロン/エレベーター)センター アンド バック
Rudder (ラダー) オポジット
Elevator (エレベーター) アンロード、ニュートラル、センター

この手順を広めたいという希望はありませんが、少なくとも、スピン トレーニングを提供する上で、私が悩むことは今後なくなることでしょう。



曲技飛行を目的に設計されていない機種では、ネガティブ G側に十分な迎角を得るような設計がされていませんから、インバーテッド側にストールすることはまず有り得ないと考えられ、同様にインバーテッド スピンも起こり得ないと言われています。

しかし、下の映像のように、状況次第ではインバーテッド スピンも有り得るようです。




〈動画〉 Plane crash, least they had parachutes.



Comp Air 7 SLXというターボプロップ エンジン装備の飛行機の事故の様子です。パイロットが飛行機をコントロールできず、映像のようなインバーテッド スピンに入ったようですが、詳細は不明です。

通常は起こりえない状況ですが、何らかの原因でインバーテッド側のストールに入り、スカイ ダイバーが天井に押し付けられ、C.G.位置の関係でスピンとしてオートローテーションが確立したのでしょうか。幸運なことにパイロットを含め、全員が脱出に成功しました。

このComp Air 7 SLXの事故は特殊なものですが、曲技飛行でインバーテッド(ネガティブ G)下の飛行を行うのであれば、アップライト スピンに加え、インバーテッド スピンについても習熟しておくべきです。

日本での講習の準備があるため少し時間が空きますが、次回はインバーテッド スピン各種について書いてみます。




Top Gun (1986年、アメリカ)

劇中、主人公の乗る戦闘機が訓練中にフラット スピンに入り、回復出来ずに緊急脱出したシーンは緊迫感に満ちていて、迫力がありました。



〈追記〉

「今日はフラット スピンをするだって?フラット スピンはリカバリーが不可能なスピンではないのか?」

この質問はスピン トレーニングでよく聞かれる質問です。NASAによると、スピンのモードの区分は迎角で分けられ、45度辺りを境に、フラット、またはスティープとしています。フラット スピンの定義は、1. オートローテーションとしてのスピン(自転)が発生していること、2. 迎角が45度より上向きであること、としてよいのではないでしょうか。

フラット スピンがリカバリーが難しい、または不可能という意見はYesであり、またNoでもあります。私も航空力学の専門家ではありませんが、私の理解している範囲で意見を書いてみます。




マンフレッド フォン リヒトーホーフェン男爵(第一次世界大戦時のドイツ軍エース パイロット)の乗機、Fokker Dr.1。



飛行機が飛び始めた20世紀初頭、飛行技術を研究するために曲技飛行が広く行われました。現在よりも航空力学や飛行理論が確立していない当時は、曲技飛行の訓練中、操縦操作を誤ってスピンに入ることは今私たちが行っている訓練環境よりも多かったことでしょう。その中で、フラット スピンはリカバリーが不可能となるとして、人々に恐れられた現象だったようです。

航空力学がまだ未熟だった当時の飛行機は、フラット スピンに陥り易い特性を持っていたそうですが、通常飛行から突然フラット スピンになる訳ではなく、そこに至るまでにはいくつかの経過があります。それらは、1. ストール + ヨー、2. インシピエント スピン、3. フーリー デベロップト スピン、4. フラット スピンです。3の段階でリカバリーが行われれば問題なく通常飛行へ移行することでしょうが、操作の躊躇があると、4のフラット スピンに移行します。

フラット スピンにならないような工夫が見出され、次第にこのような事故は減っていきました。それらは、


1. C. G.(重心位置)を後方限界に近づけない、また超えないこと。

2. 重量物はC. G.に近づけて搭載すること。

などです。もっと他にもあるかもしれません。



上の2つを詳しく見てみましょう。実は1と2は相互に関係があります。1とは逆に、C. G.が後方にあると、エレベーターに同じ舵角があったとしても得られる迎角は大きくなり、ストールしやすくなります。もしヨーイングが同時に発生していれば、スピンに移行することは言うまでもありません。

続いて、2とは逆に、重量物がC. G.から離れたところに搭載されている場合、例えば機体尾部に重量物(大き目の尾輪が装備されていたり、または前方気味のC. G.を調整するためにバッテリーを後方に置かれている場合など)があると、一度スピンが確立するとそれらの重量物は遠心力によって機体をフラットな姿勢にしようとします。紐に錘を付けて速く振り回すと、紐が次第に支点の位置に近付くことと同じです。

Pitts S-2Bを例にすると、エンジン(6気筒のLycoming AEIO-540-D4A5は約440 LBS)は機体重量(S-2Bの最大離陸重量は1625 LBS)の約1/4を占める重量物ですが、プロペラ(MTV-9 Propellerが約60 LBS)やその他の構成部品を含めると、少なくとも約550 LBS、機体重量の1/3が前方に集中しています。C. G.が後方にある場合は、相対的にエンジンなどの重量物がC. G.よりも離れてしまうことになり、同様にフラットな姿勢にする働きを持ってしまいます。つまり、1と2は相互に関係を持っており、注意が必要です。




グラマン F-14A(Wikipediaより)



もし、1と2とは全く逆の理論で飛行機が作られると、発生したスピンは自動的にフラット スピンに移行していきます。例えば、フライ バイ ワイヤー式でコンピューターを介して飛行することが前提となっている現代の旅客機や軍用機は、C. G.が比較的後方に位置し、また重量物が機体の各部に広く置かれ、またエンジンや燃料タンクは主翼にも搭載されています。

これらの飛行機がスピンに陥ると、飛行機はC. G.を中心にヨーイングを起こす、完全なフラット スピンに発展するため(下の 写真を参照)、リカバリーはほぼ不可能でしょう。仮に非常に長い時間と労力をかけてリカバリーが可能としても、地上に到達するまでの限られた時間内では難しいものです。映画「Top Gun」で見られたように、実際にF-14のフラット スピンは回復がほぼ不可能で、危険な行為とされていると耳にします。



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リカバリーが不可能なフラット スピン

フラット スピンがC. G.周りに発生している場合は、迎角やロードをコントロールするエレベーター、そしてヨーイングをコントロールするラダーに迎角を与えるような相対風がありません。操縦系統のみのリカバリーは不可能です。



では、私たちが日々の曲技飛行訓練で行うフラット スピンはなぜ安全に回復できるのでしょうか。それは、パワーや操縦系統を用いて、擬似的にフラット スピンを行い、また飛行機がC. G.周りではなく、平均的なフライト パスの周囲を前進しながらスピンしているからです。

操作については前回のブログを参照していただきますが、常に相対風があり、エレベーターにもラダーにも、引き続き空力的な効果があるために、確実なリカバリーが常に約束されているのです。



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リカバリーが可能なフラット スピン

操縦系統には引き続き相対風があり、またパワーによってフラットな姿勢を助けているため、P A R E(P A/E R E)を行うことでリカバリーが可能です。



フラット スピンも含めて、曲技飛行機ではスピン トレーニングが安全に、ストレスなく行えますが、操作を工夫すると先のリカバリー不能なフラット スピンのような、C. G.周りのフラット スピンに移行させることもできます。もちろん、正しく行うことでリカバリーは可能ですが、ある操作を残したままでは回復に非常に長い時間がかかります。

低高度でのスピン トレーニングや、リカバリーの操作に遅れがあると危険な状況になることも十分に考えられます。いずれ、映像に収めて、またこのBlog上で紹介したいと思います。


3 件のコメント:

CFI-JAPAN さんのコメント...

まいどです。 日本で何とかと書いてましたが関西に来るチャンスがあれば是非、寄ってくださいね。

スピントレーニングが、CFIの練習に限定されている私が意見を述べるのは不適切ですが、、、

PARE や PA/ERE と単純で明確なパターンを頭に叩き込んで置くのは賢明で確実な方法ですね。

今は飛行機には関係の無い業種に身を置いていますが、皆が忘れたり間違いやすい事は、PAREの様なパターンを考えて、それを教えて使う様にと指示しています。 これで、日常的なミスを大幅に減らす事が出来ています。 飛行機で学んだ事は違う業種でも有意義に使えます。

忘れやすい事が有れば「何をするのか、順序は何か、そして目的は何か?」と明確に問題点を明確にしてから、PAREやGUMPなどの様なのを考えます。

日本語の世界なのでアルファべットを使うのは難しいので「終了の5項目」とか「赤色3つ」と名前を付けて仕事をする様にしています。 これで、単純な繰り返しミスが激減しています。 アメリカでの教習経験が20年後でも役立っています。

生徒だけで無く、部下や子供にも使えるテクニックですし、ご自身でも使えます。 これを読まれている方が居たら、是非使って下さい。 高木さんクラスなら無意識に脳内でリスト化して行ってると思いますが、一般的な人は、この様なアプローチが少ないと感じています。 飛行機や英語圏内で多い手法なのかな。

なお、私はこのテクニックをマージャンに使っています。 マージャンは精神的な部分があり、負けが込んでくると脳みそがSPIN状態に入ります。 でも弱点ってのは大体決ってます。 私の場合は6個。 私は自分の弱点をそれをリスト化してから、頭がスピンに入る事が激減して、負けても被害がかなり小さくなりました。

CFI-JAPAN さんのコメント...

Flat Spinの件、たぶん分かったと思います。

1.CGの異常な下がり方による、意識しないフラット・スピン。 相対風が無いか、有っても不十分。

2. 擬似的なフラットで、本当は相対風が航空力学的に十分なだけが確保されている。

こんな感じですかね? 

Flat Spin Around and About Flight Path (Gravity? Rotation Axis?)

一般的な飛行機でFlat Spinに入ってしまう時は1の状態で、重心異常なんですかね。

CFI-JAPAN さんのコメント...

ブログの中に有った動画。

何が有ったのか不明ですが、あれがInverted Spinなんですね。 無力に見えましたがあの機種の飛行機ではRecoveryは無理なんでしょうかね。 予測でも良いのですが、PAREではRecoveryは出来なかったですかね? どうみてもFlat Spinには見えませんが、設計以外の状態ではUn-recoverableに成るのでしょうかね。 Normal Categoryの飛行機はInverted Spinの認定項目に入ってないのかな。

それよりも、何でSpinに入ったのでしょうね。エルロンが動いていた様にも見えないし、操縦系統に問題が有ったのかな。 パラシュート用の飛行機で無理した操縦なんて必要も無く水平飛行だっただろうし、せいぜいCruise Climb?

ターボプロップ機って事なのですが、CE-208とかの操縦系統はワイヤなんですか? 乗客が変に壁を押してケーブルに問題が発生したのかな。