Going straight up!
Oct 2017, Annual Open House and Air Show, Livermore, CA, USA
写真提供: John King氏 FlyerFocus.com
1月から進めているPitts Special S-2Sの整備作業はまだ途中です。今年のコンディションインスペクション(一般の航空機のアニュアルインスペクションに該当)に追加する作業は・・・
エレベーター形状の変更
ラダートリム作動角の調整
エンジンショックマウント交換
スモークオイルホース交換
ラジオ交換
EFIS(電子式飛行情報システム)のGPSアンテナ追加
こんなところです。
まずはエレベーターの形状変更の作業から。
ただ残念なのは、低速域でのエレベーターのパワー不足です。水平尾翼全体の面積減少に伴い、エレベーターの面積を増やす計画は当初からありましたが、まずは様子を見ようと判断し、今に至ります。今回ついに改良に進みます。
目標は約10%の面積増加です。可能な限りオリジナルの雰囲気は残したい。ラダーの動作に干渉しないように。すると、このような形状に落ち着きました。個人的には、この飛行機の特徴的な曲線を大切にしたいところですが・・・。
エレベーターのファブリックを剥がします。
検査と清掃をし、知人に改造をお願いします。
そして・・・
すばらしい! 作業ありがとうございました。
続いてファブリック作業です。継ぎ目が目立たないように、まず下側から覆って、上側を覆います。エレベータ程度の大きさなら、上下を1枚で覆うことができます。
以前は溶剤にMEKを用いていましたが、もう手元にありません。10年ほど前からCA州では店舗で手に入らなくなり、今回はアセトンを使用します。
曲線部分はきれいに行おうとすると苦労し、先に進みません。妥協しながら、「適当」に進めます。そう、この飛行機は飾り物ではありません。曲技飛行の世界で戦う飛行機です。安全に飛べばよいのです。
ファブリックで覆って、形になりました。ほっと一息。
続いて、アイロンがけです。250度F、300度F、350度Fと段階的に熱を加えていき、均等に収縮させていきます。たるんでいた生地に張りが与えられ、見ていると嬉しくなります。
おやつの時間です。おいしい。
飛行中も形状を維持するよう、リブ部分を1インチ毎に縫い付けます。念のためにマニュアルを開いて、結び方を確認します。
縫い付け完了!
続いてテーピングです。角や縁、縫い付け部、強度が欲しい部分に、テープや整形したファブリックを貼り付けます。このジグザグ状に切り取るはさみが「ピンキングはさみ」です。
これまではWiss社製のピンキングはさみを使用していましたが、精度が低く、途中で生地を噛んで止まって切口が痛んだり、常に不満を感じていました。
今回は日本で購入したこの製品を使います。岐阜県関市の長谷川刃物株式会社製、ピンキング鋏です。
長谷川刃物株式会社 https://www.hasegawacutlery.com/canary/
すばらしいはさみです。切口は立っていて、とても私が行った手作業に見えません。これまで感じていたストレスはもう過去のものになりました。日本の刃物文化と職人の技に感動です。
これはぜひ仲間たちにも紹介しなくては! ・・・と思ったものの、残念ながらこの製品は製造中止だそうです。このような優秀な製品が消え、安価な、しかし低品質な製品が残ります。これでよいのでしょうか・・・。
ファブリック全体を薄めた接着剤を均等に塗り、ファブリックをシールします。
格納庫の中にコオロギがいました。いい声で鳴いてくれてありがとう。
またね。
1日ほど乾燥させた後、下塗りとなるプライマーを塗ります。これまでは職場のスプレーブースを使わせてもらっていましたが、1月に退職したため、これからはこの方法に頼ります。
ふと後ろに視線を感じると、何とロードランナー(写真中央、オオミチバシリ - Wikipedia)が格納庫を覗いていました。声をかけたら逃げてしまいました。
ロードランナーはここ米国で時々見かけます。飛ぶことはできないようで、走って逃げていきます。追いかけると、どこまでも走って逃げていきます。
3日ほど乾燥させて、サンディングです。角や縫い目など突起部は傷つけないように、テープで保護して作業します。サンドペーパーが当たると生地が破ける可能性があります。慎重に行います。
プライマーの塗膜を限界まで薄く削り、表面を整えました。所々に粗も見えますが、こんなところでしょう。赤の塗装は近所の塗装業者にお願いします。
Lord社製 P/N: J-3049-39と、新たに作成したヒートシールド(右2つ)
難関の一つ、エンジンショックマウントの交換作業です。
エアフレームとエンジンの双方は、金属部品で直接締結するのではなく、振動が直接エアフレームに伝わらないよう、「ショックマウント」と呼ばれる硬質のゴム製素材で繋ぎ、緩衝作用を持たせています。一般的な飛行機ならば数年間は使用できますが、曲技飛行を行う機種では劣化が早く、特にエアショーなどで用いるタンブル系マニューバーを頻繁に行うと、毎年交換が必要です。
他の飛行機、例えばCessna、Piper、Beechcraftなどの機種では、ショックマウント交換にここまで苦労した覚えはないのですが、Pitts Special各種では毎度数時間の苦労があります。エンジンマウント側の穴とショックマウント側の穴はいつも1/4 inほどのずれがあるためボルトが入らず、エンジンを押したり傾けたり。上げたり降ろしたり、反対側のボルト/ナットを締めたり緩めたり・・・。
聞くと、Extraではここまで苦労することはないそうで、どうやらPitts Specialのエンジンマウントの設計精度が問題なようです。エンジンマウントの修正もお願いしましたが、断られてしまいました。
交換作業3日目。どうしたことか、作業は一向に進みません。その理由はショックマウントの製品を変更したこともあるのでしょう。これまで使用してきたBarry Control社製のショックマウントは柔らかく、耐久性に問題がありました。今回は耐久性を高める目的で採用した、コンパウンドが硬めのLord社製、J-3049-39。どうやら作業を見直す方法があるようです。
おや? 後ろから何か音がするような・・・
ええ? 君たち、一体どこからきたの?
フェンスかゲートのすき間から入ってきたのでしょうか。
この日の最高気温は25度C。ハスキー犬には暑かったことでしょう。掃除用に持ってきた水を全部飲んでしまいました。
いらっしゃい! 何もないけれど、ゆっくりしてね。
うれしそう。
かわいい。
30分くらい昼寝して、またどこかに行ってしまいました。
寂しいけれど、また作業にもどります。
そう、このショックマウントはゴムの材質がこれまでよりも硬い。つまり、これまでのように、手の力で歪むものでもなく、斜めに入れて変形させることも無理があるのです。
名付けて、.50 Caliber Armor Piercing(.50口径徹甲弾)
穴が揃わないと言っても、完全に塞がっているわけではありませんから、ガイドの形状を変更すればいいのではないでしょうか。ジャンク箱から古いAN-8ボルトを探して、新たにガイドを作ります。
先端は尖らせ。
角度は浅く。
軸部分も少し残して、向きが安定するように。
抵抗を減らすためになだらかに磨いて。
そして後ろはボルトの先端が収まるような窪みをつけました。これでガイドとボルトが一体化し、ボルトが穴を通る可能性が高くなるはずです。
まずは、後ろ側のショックマウントのみを付け、ガイドとボルトを入れて・・・
エンジン側から中を覗くとこのような状態です。大丈夫、このガイドなら行けるはず・・・。
2回目で手応えがありました。
やりました!中を覗くとボルト先端がしっかり通っていました。このままボルトを回転させれば通ります。
次は前側です。要領は同じ、もう不安はありません。
エンジンショックマウント交換作業完了。
「相手は機械だ。力でどうにかしようとしても、それは無理なことだよ」
昔、先輩整備士から聞いた言葉はその通りでした。エンジン自体の重さを利用して、各部品を動かないようにして。ボルトのストロークを長めにするために、プラスチックハンマーで強めに叩く。
今更ですが、今回また新たに学ぶことがありました。次回は1時間もあれば交換作業が終えられることでしょう。
バルブカバーを外して内部の状況を確認します。
このエンジンのオーバーホールは2008年、現在までの時間は約500時間です。平均飛行0.3ー0.4時間の曲技飛行が主なため、年数の割に時間は少ないですが、始動回数は多めです。
つまりエンジン内部に発生する錆も多いはずですが、ご覧のようにバルブカバー内部に水分は見られず、錆と言えるような腐食も見られません。なぜでしょうか?
これについてはまたいずれ。
点火時期を26度BTDCに調整。エキゾーストパイプやその他も再度取り付け、エンジン回りはほぼ完了です。次はエアフレーム側の作業です。
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