A. 航空機に取り付けられるプロペラは、固定ピッチプロペラと可変ピッチプロペラの2つに大きく分けられます。言葉の示す通り、プロペラのピッチ(プロペラハブに対するプロペラブレードの取り付け角)が変更できない固定式のものと、ピッチを変更できる可変式のものの2つです。
木製の固定ピッチプロペラを装備したPiper J-3 Cub。
曲技飛行機でも、7ECA 「Citabria(シタブリア)」やPitts S-1系など、固定ピッチプロペラが取り付けられた機種は多く見られます。そして、一般的に180HPから200HPを超える高出力の飛行機、例えばCessna 182やPiper Saratoga、Beechcraft Bonanzaなどでは可変ピッチプロペラが取り付けられていますが、これらはプロペラのピッチが自動的に変化し、設定したプロペラ回転速度を自動的に保つ「定速プロペラ(または恒速プロペラ)」です。
今年のUS National Aerobatic Championships(全米曲技飛行選手権)のコンテストディレクタ―を務めたギャリーさんと、彼の愛機Pitts S-1S。固定ピッチプロペラを装備しています。
可変ピッチプロペラとは「プロペラのピッチを変更できる」形式のものを指し、これには地上でのみピッチを変更できる「Ground Adjustable Propeller」や、High SpeedとLow Speedの2種類のピッチを選択できる「Two-Speed Propeller」、モ―ターグライダーや多発飛行機に装備される「Featherable Propeller」、遠心力とスプリングの力によって自動的に適正なピッチに変化する「Automatic Propeller(製品名Aeromatic Propeller)」などが含まれます。
定速プロペラは可変ピッチプロペラの進化型です。飛行速度や出力に応じて、プロペラ回転速度は常に変化しますが、プロペラガバナがプロペラピッチを自動的に調整することによって、設定したプロペラ回転速度を保持するというものです。ただ、プロペラのピッチを変更できると言うよりも、ピッチは回転速度保持のために自動的に変化すると言うべきでしょう。地上では出力も対気速度も低いため、扱いは固定ピッチプロペラに類似しますが、飛行中は操縦士が任意で設定した回転数を保持する「定速プロペラ」として運用が可能です。
整備中のPitts S-2Sの操縦席。左の青いレバーでプロペラ回転数を調整します。
定速プロペラの構造や操作方法などは教科書などでご理解いただけますが、ではそれぞれ運用上どのような違いがあるのでしょうか。飛行経験のない方にも理解できるよう、自転車を例に説明してみます。
飛行機は「坂道を自由に設定できる乗り物」です。ここで、上り下りの険しい山道を、変速機のない自転車(固定ピッチプロペラ)で走ると考えてみましょう。急な上り坂ではペダルを漕ぐことができずに止まってしまうこともあるでしょうし、また急な下り坂ではペダルの回転が追いつかず、推進力を十分に利用できなくなります。
整備中のPitts S-2S。プロペラハブとプロペラブレードは別部品で、根元部分が回転し角度が変化します。
もし変速機があれば(可変ピッチプロペラ)、ギア比を減らすことで上り坂でもペダルを漕ぎ続けられるでしょうし、また下り坂ではギア比を上げてペダルを漕いで、速度をさらに稼ぐこともできます。さらに、その変速機が自動で無段階に変化すれば(定速プロペラ)、ケイダンス(自転車のペダルの回転数)は自動的に一定に保たれますから、運転者は走ることに集中しながら、身体的な負担を軽減しつつ、効率よく走れることになります。
定速プロペラは確かに便利な装備ですが、固定ピッチプロペラで行う曲技飛行もまた楽しいものです。調べたら、古い動画が出てきました。
〈動画〉 Basic Aerobatics
機種は固定ピッチプロペラ装備のAmerican Champion Aircraft社製の7ECA「Citabria」です。またこのような飛行機で、曲技飛行の原点に戻ってみたいものです。今悩んでいることも、解決できる答えがそこにあるかもしれません。
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