2020年9月6日日曜日

MEIに挑戦 4



さあジョーンズタウンへ出発です。深夜に部屋を出て、早朝のサンホゼ発の飛行機から3本乗り継ぎ、ピッツバーグ到着は夜22時前。総飛行時間はともかく、まるで国際線のような長時間の行程です。そして機内や空港内でずっとマスクをしていたためか、頭痛で辛い・・・。

レンタカーを2時間運転し、日付が変わり、やっとの思いでホテルに到着しました。あまり寝付けないまま、とにかく横になります。おやすみなさい。



Nulton Aviation


Day 1 Chrisさんの心遣いで初日は午後から座学です。ここで、MEIの試験でもIAP(Instrument Approach Procedure、計器進入方式)のデモンストレーションが必要なこと。そしてIAPをSingle Engine(片方のエンジンを停止させた片発状態)で行う必要があると判りました。

さあ困りました。実はX-Planeで計器飛行の練習をしたのですが、9年の空白は予想以上に長く、衰えた技術は回復できませんでした。明日はIPC(Instrument Proficiency Check、計器飛行の知識や技術の再確認)の完了を目指します。予習をして眠ります。



KJST Johnstown Airport


Day 2 DA42の操縦席を模擬したRedbirdシミュレーター(https://simulators.redbirdflight.com/)で、午前と午後の2回飛行しました。合計6時間の訓練の後、合格のサインはいただきましたが、実情は私自身がよく判ります・・・。部屋に帰り、深夜までまた復習と予習を行いました。



KJST RNAV RWY 33


Day 3 ようやくDA42の飛行に入ります。5日間設けた訓練日程で今日で3日目。この様子だと、予定の期間での完了は難しそうですが、「Just do it」です。とにかくやってみます。

昨日のシムで少しだけDA42とG1000の取扱に慣れました。しかし、実際に飛行しながらとなるとどうしても2歩3歩遅れます。まだ外の景色が見えるからいいものの、これでIMC(Instrument meteorological conditions、計器飛行方式が適用される気象条件。霧や雲の中での飛行など)となると、今の私にはお手上げです。




DA20-A1「Katana」のように、DA42の優れた視界と高い飛行性能に感動しましたが、ピッチ方向の静安定が少し足りず、高度の維持に苦労させられました。これはDA42の特徴の一つだそうで、確かにDA20-A1も似たような飛行機でした。

他にVmca Demonstration(臨界発動機の出力を下げ、反対側の発動機を全開にしての実演)や、片側のエンジンの停止と再始動を行い、空港で離着陸を何度か行いました。1時間半くらいの飛行でしたが、曲技飛行をしていなくても、訓練なら同じように疲労もあるのだと、改めて思いました。

MEIに挑戦 3

まとめると・・・

初めての飛行機、DA42 Twin Star
初めてのディーゼルエンジン
未経験のGarmin G1000グラスパネル
2011年以来の計器飛行と夜間飛行
1995年の資格取得以来の多発飛行機

少し不安要素が多い気がしますが、誰でも初めてのときは初心者です。




MEIの試験で確認されることは、大まかに言えば、多発飛行機に関する講習が行えること、飛行訓練を当該機で適切に、安全に行えることです。「お前がこれまで受けてきた、どんな資格よりも簡単だぞ。」とCrhisさん。うーん、そうは思いませんが・・・。訓練は4日間、5時間のシミュレータと5時間の飛行訓練で、見積は$5,000だそうです。

多発飛行機に関するシステムや航空力学、そして片方のエンジンが停止したときなどの非常時の取扱いを学び、DA42のチェックアウトを完了させます。装備されているG1000の取扱いも学ばないといけません。

これらを全て仕上げ、インストラクターとして訓練を提供できるまでにと考えると・・・。DA42にすでに乗り慣れていて、現地の空域も熟知していれば可能でしょうが、私には4日間での完了はとても無理です。

でも5日間あれば何とかなるか・・・。では、5日間の訓練、そして6日目に試験という計画で予定を立てます。




2週間後の出発まで、多発飛行機のおさらい、IFR(計器飛行方式)、FAR(航空法規)、そして多発飛行機に関するレッスンプランの準備を行います。



X-Plane 11
まるで現実世界のように見えますが、PCのフライトシムです。


そして便利なのがX-Plane(PCベースのフライトシム。https://www.x-plane.com/)です。「なんだ、ゲームじゃないか」などと侮ってはいけません。Cessna 172SやBoeing 737など、付属している機体は実機さながらに再現されています。

そこに追加で購入した、6人乗りバージョンのDA62をアップロードして練習をしました。飛行特性はほぼDA42と同じ。とても役に立ちました。



G1000を装備した、X-Plane 11のDA62の計器盤


画面内のS/W(スイッチ)やC/B(サーキットブレーカー)はほぼ全てがマウスで操作が可能で、現役の旅客機飛行士も練習に使うほどの正確さを誇ります。G1000の予習もでき、とても助かりました。

MEIに挑戦 2


1995年 CA州Watsonville
多発飛行機の訓練時代。当時23歳!


私は 2000年にCFI(Certified Flight Instructor、飛行教育証明)を取得して、フライトインストラクター職を始めました。翌年CFII(Certified Flight Instructor Instrument、計器飛行教育の教育証明)を取得し、続けてMEIの取得も考えましたが、その頃Pitts S-2Bの曲技飛行競技を始め、それっきりとなりました。そう、今こそがMEIに挑戦する時です。



2016年 Chrisさんと私、5日間の訓練を終えて。


ペンシルバニア州在住のChrisさんに連絡して、MEIの訓練はできるか聞くと、「もちろんだ。ぜひ来い!」との返事を受けました。彼は4年前に曲技飛行訓練にやってきた方で、ビジネスジェットに乗務する傍ら、フライトインストラクターをしています。行先はPA州JohnstownのNulton Aviation。決定です。



Diamond Aircraft社製 DA42 Twin Star


Nulton Aviationで訓練に使用する陸上多発飛行機は、2007年製Diamond Aircraft社製DA42「Twin Star」。当初は多くの飛行学校で使われる、クラシックなPiper PA-44「Seminole」やBeechcraft 76「Duchess」などを考えていましたが、DA42もとても興味があります。

DA42は2004年の登場から今年で16年経つものの、私には十分に最新鋭機です。4人乗りで一回り大柄になりましたが、昔乗ったDA20-A1「Katana」という2人乗りの飛行機に構造や形状がよく似ています。アクロバット機のようなスティックで操縦を行うところも同じです。



Thielert社製のTAE 125 - 02 - 99型エンジン


革新的なエンジンを採用するところもその流れでしょうか。DA20-A1がRotax社製の912型、最大出力80HPのエンジン+定速プロペラという特異な組み合わせを採用したように、DA42はThielert社製のTAE 125 - 02 - 99型、最大出力135HP、ターボチャージャー装備のディーゼルエンジンを搭載しています。エンジンコントロールはFADECシステムによって自動化され、スロットルでの出力調整を除いて、混合比やプロペラ回転数などは手を加える必要がありません。



Garmin G1000 グラスパネル


そして、計器盤に配置されたGarmin社製G1000グラスパネルです。今後このようなTAA(Technologically Advanced Aircraftの略。Moving MapやIFR下での運航を可能とするGPS航法装備、そして自動操縦など高度な装備を持つ航空機)はさらに一般的なものとなることでしょう。従来のいわゆる「Steam Gauges」と呼ばれる、機械式の飛行計器で飛んできた私には貴重な経験となるはずです。

MEIに挑戦 1

MEIに挑戦 全10回




中国武漢市発のCOVID-19の影響で、2020年は世界中で大変な騒動になりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。

ここCA州King City周辺は、3月から4月にかけての一時期な品不足は解消し、人々がマスクをつけているという点を除けば、特に目立った変化はありません。お店に入るときにマスク着用が義務付けられ、レストランの店内での飲食は禁止でテイクアウトのみで、床屋は店外に椅子を置いて営業するなど工夫しています。医療機関の実情はわかりませんが、BLMに関する暴動もなく、ここKing Cityは平和です。




職場のTutima Academy of Aviation Safetyは3月半ばから飛行訓練の受け入れを停止しました。州は食料品店、薬局、ガソリンスタンドなどと同様、飛行訓練事業もEssential Businessとして営業を制限付きで認めていますが、当校はCOVID-19を「未知の病気である」として一時閉鎖する決定を下しました。




エアショーなどのイベントは全て中止、またはバーチャルエアショーに変更。曲技飛行競技関連は、世界選手権は全て中止。参加を楽しみにしていた全米曲技飛行選手権は中止になりました。しかし7月以降、米国内の地方競技会は活動の再開が見られます。



職場が閉鎖ということは、それはつまり我々のような飛行学校のインストラクターは収入がなくなるということです。基本的に収入は出来高制ですから、訓練生がいなければそこに給与は発生しません。せっかく愛機Pitts Special S-2Sの整備を終えましたが、練習飛行する金銭的余裕もありませんし、競技会もエアショーも中止ということは、練習する意味もないことになります。




このまま2020年が何もないまま終わってしまうのは寂しい。この状況に不安はあるけれど、これが永遠に続くことはない。出費は気になるけれど、何か新しいことに挑戦してみようか。そうだ、MEI(Multi-Engine Instructor、多発飛行機の飛行教育証明)はどうだろう?

2020年2月16日日曜日

時には昔の話を 2





2010年2月18日、17時18分(米国西海岸時間)。FedEx Feederの単発ターボプロップの小型貨物機、Cessna 208B、Super Cargomasterは定刻でCA州アーケータ空港を出発した。

日没は17時54分。2月になり日は延びたが、出発地のアーケータは雲に覆われ、また上空にも雲が残り、離陸後すぐに暗闇に包まれて夜間飛行になった。






高度9,000ft MSLにレベルオフ、南東へ進む。サクラメントバレーに入ると完全にVMCになった。アイシング(着氷)もなく、今夜の飛行はいつになく順調だ。今夜は宿に早く帰れるだろう。

自機はSouthwestやUnitedなどの旅客機に交じり、サクラメント国際空港の滑走路16Rへ、対気速度170KIASでヴィジュアルアプローチを開始した。滑走路まで約1Mile、高度300ft AGL、速度約160KIAS。おや?前方に何か、白い雲が見える。・・・いや雲じゃない、鳥の群れだ!






「バン!」


同18時41分、バードストライク。避けることもできず、一羽が右側主翼の、レーダードームの向こう側に衝突したようだ。しかし運がよかった。どうやら右側主翼に当たっただけで、エンジンの運転は順調だ。突然のことで驚いたが、滑走路も近い。今はまず着陸しよう。

パワー バック、フラップス ダウン。減速と共にAOA(迎角)を増やし、そして増えたAOAが増えすぎないように、AOAをCAOA(臨界迎角、失速角)に近付かないように、フラップスを下げる・・・。

しかしおかしい。なぜか飛行機が右へロールする・・・。左エルロンを入れるものの飛行機はさらに右へロールを続け、ついに右に20-30度バンク、しかしエルロンはすでに左へ一杯。

一瞬、炎に包まれる自機が脳裏に浮かぶ。いやそれはまずい。パワーを足して、エルロンにDynamic Surgeを加え、飛行機を水平に戻すことができたのは運がよかった。少々ハードランディングになったものの、着陸し、飛行は終了。

「助かった・・・。」






事故後の検査:

鳥は右側主翼に備え付けられているレーダーの外側、ランディング/タキシ―ライト部に衝突した。衝撃は右側主翼のスパーウェブ、スパー(主桁)のロードを受け持つ主部分に伝わり、結果スパー全体が下向きに変形した。加えて、エルロンのコントロールケーブル部分が脱落し、エルロンコントロールが減少した。

当該機は右側主翼を交換し、約3か月後にサービスに復帰した。現在も活躍中だ。






事故回避の方法は: 


バードストライクの防止は・・・。それは鳥を避けることの他にはない。


鳥は通常、曇りの時なら、雲の下や雲の上を飛ぶことが多いから、雲を抜けるときに注意しろと、またイナーシャル セパレータを開いて、異物の混入に備えろ、などと言われる。外を注視することで発見も可能だろうが、単独飛行が主の小型貨物機の運行では、やはりワークロードの面で難しい。

では、この件で発生したフレア中の右ロールについてはどうだろう。バードストライクの結果、右側主翼のスパーキャップが下向きに変形、またエルロンのコントロールケーブルの脱落が原因とのことだ。

これは私見だが、鳥が衝突して主翼のリーディングエッジ(前縁)が破損、変形したことで、気流の剥離が早期に起き、右側主翼のストール(失速)が早くなったこともあると思う。なぜ翼型がそのような形状になっているのかを考えれば当然のことだろう。

飛行中に主翼や尾翼が破損しリーディングエッジが変形したら、速度は高めを維持し、迎角はなるべく浅く、着陸時のフレア(引き起こし)は最小限にした方がよい。尾輪式飛行機でいうところのウィールランディング(接線着陸)の考えだ。これを用いることで、片翼の早期失速を含む、異常な失速現象を防ぐことができるはずだ。






もし、それでも飛行機のロールをコントロールできなかったら・・・。私は主翼の破損まで考えていなかったし、またエルロンのコントロールロスも頭になく、いつも通りにフレア操作をした。結果、上記のようにエルロンが「足りない」状態になったわけだが、そこで有効な手法の一つが、通称「Dynamic Surge」だ。一般的には曲技飛行での超高迎角機動で用いられる手法で、通常飛行では不要。しかし私は、Cessna 208Bにおいては強い横風下の離陸時に、この手法を使って早めにウィングローに移行して離陸するなど、普段から親しんでいた。

エレベータやエルロン、ラダーなど、操縦舵は最大角度からわずかに戻し、また最大角度に入れる「サージング」を与えると、一定角度で維持するよりもその効果が向上する。例えば、低速度+高迎角からループ(宙返り)を行うとき、エレベータに「サージング」を加えると、勢いを失った機首上げを再開させることができる。

スピントレーニングで飛行機が完全なオートローテーションに入ってしまい、通常のスピン リカバリーでは止まらないということも、過去に何度か遭遇した。その時は、ラダーとエレベータをサージングさせて回復させた。

同様に、強い横風のある滑走路から離陸するとき、教科書的に、エルロンを最大角度で風上側に保持しているよりも、最大角度とわずかに戻した角度とを往復させた方が、早くにウィングローに移行でき、離陸時の方向維持を容易に行える。その効果はせいぜい60-70KIASでウィングローになるところを、50-60KIASで行える程度のもので、必ずしも必要な操作ではない。また着陸時に使ったことはこれが最初だったが、こうした研究(遊び)が身を助けたとも言えるはずだ。






鳥の正体は:

翌日、鳥の遺骸は検査機関に運ばれ、衝突したのはタンドラ スワン(Tundra Swan、コハクチョウ)と判明。サクラメント周辺は川や湖が多く、鳥の群れは常に目にした。コハクチョウは翼幅が2m前後の大きな鳥で、もし複数の鳥に衝突したら、操縦不能になることは十分にあり得る。コハクチョウ、許しておくれ。






この一件から10年。職業飛行士として毎日飛び続けていれば、いずれまた何かあるだろう。

でも今は、10年間の無事故達成が嬉しい。
Happy 10-year anniversary!



詳しい内容はこちらから:
NTSB Accident Number: WPR10LA141
https://reports.aviation-safety.net/2010/20100218-0_C208_N892FE.pdf

2020年1月7日火曜日

時には昔の話を 1


人生には楽しい思い出がたくさんあり、しかし中には思い出すことも嫌な出来事もあるものです。
私の過去の出来事を少し・・・。



Episode 1

某日某所。今日から3日間訪れる訓練生はヨーロッパ在住のエアラインパイロットだ。彼は家族とヨーロッパ某国に住み、韓国の航空会社でAirbus 330の機長をしている。彼との飛行訓練はこれで2回目。ある小型単座のスポーツ機の飛行に備え、今回は離着陸訓練を主にしたいとのことだった。

彼のこれまでの総飛行時間は約10,000時間。ただ、過去の経験のほとんどは大型旅客機。今回の訓練で使用する小型尾輪式飛行機では、離着陸時の方向維持が主なポイントになることは言うまでもない。

ヨーロッパからの長旅の後の訓練であり、しかし彼には効率よい飛行訓練を、可能な限りの経験をしていただこうと、私が機体の準備や燃料補給を行い、その間の10分は彼には休憩してもらう。飛行機と私のスケジュールは一杯。確保できた4時間の間に約48分の離着陸訓練を2回、可能なら3回。いや4回いけるかと、とにかく詰め込んだ。

ハイパワーなこの小型尾輪式飛行機は加速上昇性能に優れ、他にトラフィックなどの干渉がなければ、48分の間に15回から20回の離着陸を行える。その様はまるでローラーコースターだ。初日は4時間の時間制限の間に2回。2日目は3回飛行した。

離着陸の難易度の高さで定評のあるこの機体で、これだけの離着陸回数を行えば、疲労が限界に達するのは当然だ。彼の尾輪式飛行機の離着陸技術はまだ不十分で、着陸後に方向維持を失う事は頻繁にあり、緊張が走る中での訓練が続いた。

3日目の朝、私は軽い頭痛がする中で目が覚めた。プロフェッショナルとして、体調に不安があれば飛行訓練を辞退することは当然だろう。しかし、忙しい日程を調整して、遠くヨーロッパからやってきた彼との訓練を辞退する勇気は私にはなかった。これまでも、さらに具合の悪い状態で飛行することは何度もあった。そう、軽い頭痛程度で辞退することない。

今日は最終日。着陸訓練の仕上げをがんばろうと、ブリーフィングをして出発。しかし、方向維持に必要な彼のラダー操作は、どうしても前輪式飛行機、それも大型機のスタイルだ。とても尾輪式飛行機のそれではない。1回目の飛行を終えて、燃料補給、そして休憩している彼を呼んで、また離着陸訓練に上がる。

技術というものは簡単に身に付くものではない。およそ15回行った着陸で、ゴーアラウンドは6-7回はあっただろうか。フレア中の機体の高さ、降下率、方向維持、ハードランディングなど、何か問題が露呈すれば、またその予兆があれば、私はすぐにゴーアラウンドを指示した。最終的な目標が彼が自身でその判断ができるようにならなくてはいけないが、「ゴーアラウンドは常に最善の選択肢だ」を合言葉に何度もゴーアラウンドした。その度に私は両親指を立てて「Good job!」と叫んだ。

そろそろ離陸して40分になる。彼の集中力も限界だ。着陸して休憩しようと私は提案した。そう、私は「Let’s make a full stop(着陸しよう)」と言ったのだった。

そしてそれは起きた。着陸直前に滑走路左側に寄った飛行機を見て、私は「Give me the Right Aileron(右にエルロンを入れて)」と指示した。そうなのだ、それまでの私なら「ゴーアラウンド!」と必ず指示していた状況なのに、その時の私の言葉は「右にエルロンを入れて」だった。

後席に座る訓練生に可能な限りの視界を提供しようと、前席に低く座ることが私のスタイルだ。それは、外から私の姿が見えないと言われるほどに低い。それもまたいけなかった。私は一瞬機体の姿勢が判らなくなり、次の瞬間彼は「Oh, No!」と叫んだ。

気が付くと機体は左に大きく傾き、左翼端は滑走路に接触していた。「I have!」 咄嗟に私は操縦を代わったが、すでに遅い。機体の姿勢と降下率から判断して、機体がハードランディングしたのは明確だった。

その後の機体検査で、左翼端と左エルロンに擦過痕があり、左側のウィールパンツを破損した他にダメージはないと判明した。幸いにも飛行機は修理可能、そして我々2人も無事だったことはよかった。私は、わずかにも彼を危険にさらしたと、そのことを彼に詫びた。

修理は保険会社を通さずに、社内で行うことになった。確かに、保険会社にクレームすれば保険金額も上昇し、私はともかく、彼の経歴にも傷がつくことになるだろう。家族を養う彼のためにも、それはできるだけ避けたい。

彼のミスでハードランディングとなったことだが、全ての責任は教官として、機長として搭乗していた私にある。アクシデントレポートの必要もない、保険会社へのクレームもしないと伝えると、彼は本当に安心した様子だった。よかった。

責任の一つとして、私はおよそ1ヶ月、無償で飛行機の修理に当たった。私はあるイベントとその準備におよそ1年半をほぼ無収入で過ごしていたため、再び迎えた無給生活は生活をさらに厳しいものにした。私は彼に1ヶ月分の生活費の支援をお願いした。「申し訳ないが、$2,000の支援をお願いできないだろうか?」と。

彼からの返事は残念なものだった。「何を言っているんだ?会社からの給料があって、保険会社からもお金が出るのだろう?それでさらにお金をなんて、俺はよくても家族が納得しない。断る。」とのことだった。「我々のような飛行学校には一定の収入など存在しない。インストラクターの収入は全て出来高制だ。そして、保険会社へ請求すれば、いつ、どこで、誰がそのイベントに関係したか、全てが知られることになる。それを恐れたのはあなたではないか。」と憤りを感じたが、それは伝えなかった。私は友人を失った。

飛行機に携わってから25年+。飛行機の操縦技術や整備技術は少々身に付いたが、対人関係は相変わらずだ。誰かのためにBestを尽くし、そして後悔する。私自身のこの問題点の改善は期待できないが、とりあえず、今後は「Go around!」をさらに大切にしようと思う。

2020年1月1日水曜日

2020年 あけましておめでとうございます




Happy New Year

あけましておめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願いします

髙木 雄一
REDFOX Airshows




Photo: Mr. Hank Lutz