2014年5月14日水曜日

飛行機とは、どこまで飛行機であり続けられるのか


Pitts S-2Bの機内から。
滑走路がこのように見えると、私はとても安心できます。



ある日の飛行訓練に向かう機内でのこと。Final Approachに一機のMooneyがKing City空港にやってきました。どうやらStraight-inでRunway 29に着陸するようです。



Pilot: King City traffic, Mooney XXX, 1 mile final, Runway 29.



しかしおかしいですね。1 Mileと言えばもうすぐ近くのはずですが、まだ機体が見えません。すると、同乗していた訓練生が、「何だあの飛行機は?あんなに低くApproachして。あれじゃあEngineが止まったら滑走路に届かないじゃないか。」と言いました。

それを聞いて視線を地平線近くに移すと、ようやく私にも飛行機が見えました。非常に高い角度でApproachしてくるPittsやExtraは特殊だとしても、通常の3度のApproach Pathよりもさらに低い角度のMooneyが見えました。本当です。あのようなPowerに頼りすぎたApproachは単発飛行機の飛行としては失格です。

「見てみろ、あんなApproachをするようじゃ、どんなパイロットが乗っているのか知れたものだな。緊急時を考えずに飛行するなんて、同じMooneyのパイロットとして恥ずかしい限りだ。」 この方はMooneyを自身で保有していて、駐機中のMooneyを見ただけで重心位置が判るというほどの通の方です。

彼の言葉を聞いて、全くその通りだと納得します。・・・おや?ちょっとお待ちください。あなたは確かあの時、こんなことを言いませんでしたか?それは、遡る2-3ヶ月前、PittsでApproachについて議論しているときのこと。



訓練生: Yuichi、お前はPittsでApproachするとき、どんなPower設定で行うんだ?


私: Powerを保持してApproachすることには長所と短所があます。長所はAfter fireの騒音を解消させること、真冬の低い気温の中でもEngineを急冷却を防げること。そして、Approach中の降下率が緩やかになりますから、Round outを開始するタイミングを計り易いことです。

短所といえば、Powerを使ってApproachしているためApproach Pathは浅くなりますから、Powerを失えば滑走路には辿り付けません。訓練の最初の段階ではPowerに頼った方法で、緩やかにApproachしてもいいですが、最終的にはPower Idleで降下率を管理しながら行えることが目標です。真冬と言っても、CA州程度の気温なら、Approach中の速度でShock Coolingにはなりませんから、安心していいと思います。


訓練生: Power IdleでのApproachが最終目標だって?どのような方法であっても、その人が安心して、安全にApproachできるならどんな方法でもいいんだ。お前は前に「Power on and Forward Slip」のMixed Approachを間違いだと言ったが、人には人の意見があり、好みがある。強制するのはよくないな。


私: では、あなたの言う安全とは何ですか?少なくとも、飛行機として想像できるどのような状況が起きたとしても、確実に安全に着陸する技量を身につけること。これが安全につながることと思いますが。あなたはCessnaでの通常訓練でも、着陸できればどうでもいいと教育しますか?強制しているのではなくて、「That's what it is.」ということですよ。

・・・以下省略。




昨年9月、第4回全日本曲技飛行競技会で、滑走路32にApproach中のPitts S-2B。私のApproachは、常にPower Idleの、急角度でのShort Approachでした。それが意味するのは何でしょうか?



さて、あなたはお乗りになっている飛行機の滑空性能をご存知でしょうか。少し記憶があやふやになってきていいますが、Cessna 152やCessna 172のPower idleでの降下率は、確か600 ft/minから700 ft/minくらいではないかと思います。つまり、最良滑空速度を60 KIASとして、1分間で600 - 700 ftの高度を失う間に、無風なら1 NMの距離を進むことになります。このように性能を数字として記憶することは大切なことですが、滑空性能を視覚で認識しておくことはそれ以上に重要です。これを用いて、自機が周囲の滑空可能範囲内に着陸可能な場所を連続的に確保していると確認することは、巡航中か着陸進入中かに関わらず、安全飛行を維持し継続していく上で非常に重要です。

私の普段の飛行は単発曲技飛行機で、Cessnaなどの単発飛行機に比べて滑空性能が非常に劣り、小さな主輪と速い着陸速度のため不整地での着陸に難があるような飛行機ですから、このような状況認識は常に維持するようにしています。例えば、Pitts S-2BやS-2Cでは、Engine Fail時の降下率はMT-Propeller装備の機体で約2,200 ft/min、Hartzell Clawなどの幅広Bladesを装備したPropellerでは約2,500 ft/min。仮に、Downwindを1,000 ft AGLで飛行中にEngine Failとなると、Downwindが滑走路から遠かったり、Downwindを着陸地点横より延長したり、または向い風が強かったりすれば、滑走路への無事な着陸は期待できない、曲技飛行機とはそんな飛行機たちです。




Pitts S-2BでのWheel Landing(接線着陸)

Wheel Landingを必ずしもしなくてはいけない訳ではありません。Wheel Landingも、上手く行えば、Three Point Landingと比べて滑走距離はそれほど変わりまんが、ブレーキ系統には負担のかかる着陸方法です。しかし、着陸場所が他に見当たらないこのふくしまスカイパークで、例えApproach中にEngine Failになっても、また突然強い向い風になったとしても、確実にこの滑走路に着陸するには、運動エネルギーを維持したこの着陸方法が確実と判断した結果です。



私は、単発飛行機、特にFlapsを装備しない機種での着陸進入時のApproach Pathは、Engine Fail時のGlide Pathと同じであるべきと考え、それよりも低いApproach Pathや高度での飛行は避けるべき、または危険域での飛行であるという認識が少なくとも必要と考えます。Approach中にPowerを保持することは、Approach中の降下率を緩やかにし、また極寒冷地ではEngineの保温を目的にと、一般的に使われる手段です。もちろん、私もApproach Pathの修正が必要とあればPowerの追加や保持を行いますが、これを当然のことと、標準として常時行うことは、自機を引き返すことのできない領域に、常に追い込んでいるということではないでしょうか。

こう意見を述べると、「飛行機はPowerがあるという点で滑空機よりも優位にある。Approach中とはいえ、これを使わないでどう飛行するというのか?」と返されます。飛行機は確かにPowerを利用して推力を発生して飛行しており、飛行の自由度は向上しますが、ではそのPowerは恒久、不変のものでしょうか。いいえ。飛行機はPowerがあることを前提に運用するように設計された航空機ですから、一度Engine Failとなれば、非常に性能の劣る滑空機へと変貌します。飛行機を飛行機として運用するという言葉には、飛行機は常に滑空機へと路線変更する可能性があり、その準備もまた必要なのだということであると考えます。

またまた手前味噌な話題でした。あなたの今日の飛行はいかがでしたか?

2 件のコメント:

Okunuki さんのコメント...

グライダー曳航機ハスキーの着陸で同じようなことを感じています。グライダーの離脱場所が降下開始場所になりますから、毎回着陸進入経路は異なります。離脱直後はヒートショックを避けるためにパワーを残してハイバンクで高度を下げ、徐々にパワーを絞ってアイドル滑空にするのですが、以降は、接地点までアイドル進入が基本で、経路とスリップで高度を合わせます。ポイントは、風向風速、土手越え等の下降気流とウインドグラディエントの読みになります。これを見越して余裕を持たせ、もう大丈夫と言う所で、余った速度と高度をスリップで処理します。以前、ハスキーを、上空でミクスチャーでカットオフにして、グライダーと同じ感覚で着陸させたことがありました。1日の終わり等、滑走路がフルに使えて余裕がある時に、一度経験しておくと、いざという時の参考になります。

Yuichi Takagi さんのコメント...

奥貫さん

滑空場のように広い敷地があれば、本当のDead Stickの着陸をしてみたいものです。そう言えば、以前にも同じような話題でBlogを書いていますが(http://aerobaticchannel.blogspot.com/2013/10/blog-post_24.html)、着陸競技の開催とそれに向けての訓練は、General Aviationの航空安全に大きな効果があることでしょう。曲技飛行訓練と併せて皆様に体験していただきたいと思います。