2015年1月1日木曜日

Spinを考える 4

「想定できる最悪な状況を考慮して飛行すること。飛行とは常にそうあるべきで、そうすれば飛行訓練の方向性も見えてくる。」 ー J. R. P. 氏談、A飛行学校、校長






「スピンからの回復操作は、パワー バック、エルロン ニュートラル、ラダー オポジット、エレベーター ニュートラル。P A R Eの操作を身に着けておけば、どのようなスピンからでも確実に回復できます。(実は例外もあるのだけれど・・・)」

一通りスピンについて説明してスピン トレーニングに向かいます。セオリー通りに「Basic to Complex」の順に行うとすると、スピンに関しては「アップライト ノーマル スピン」から練習することが一般的です。




〈動画〉 アップライト ノーマル スピン (Spinを考える 2より)



アップライト ノーマル スピンの挙動に慣れたところで、スピン中にエルロンを使って、挙動の変化を見てみましょう。



〈動画〉 アップライト エルロン アクセレレーテッド スピン、プロ ロール エルロン / イン エルロン (Spinを考える 3より)

エルロンの入力で、スピンの旋転が速くなるかどうかは機種によるところですが、一般にエルロンを用いるスピンをエルロン アクセレレーテッド スピンと呼びます。前回説明した通り、ExtraやPittsなどの曲技飛行機では、エルロンの入力によるアドバース ヨーのためにスピンのヨーイング成分が打ち消し合い、スティープ スパイラル気味(下に追記)にロールしながら降下していきます。




〈動画〉 アップライト エルロン アクセレレーテッド スピン、アンタイ ロール エルロン / アウト エルロン

アップライト ノーマル スピン中に、スピンの旋転方向とは逆方向にエルロンを入力したものです。動画を見ていただければお分かりになることですが、迎角は臨界迎角を超えているにも関わらず、エルロンは逆方向ではなく、正方向に作用しています。発生した逆方向へのロール モーメントがスピン中の機首が若干上がり気味になることも確認できますが、これはおそらく、主翼がフラットになることで翼面の有効面積が増加し、揚力が増加したためではないでしょうか。




アップライト ノーマル スピン



アップライト エルロン アクセレレーテッド スピン、アンタイ ロール エルロン /アウト エルロン



以上のエルロン アクセレレーテッド スピンからのリカバリーも、P. A. R. E.が有効です。下の写真で操作をご覧ください。




P (パワー バック)



右(アンタイ ロール エルロン) に入力されたエルロンを・・・



A (エルロン ニュートラル)



R (ラダー オポジット)、右ラダーを蹴り・・・



E (エレベーター アンロード)

スピン中にパワーの操作はしていなくても、スピン中に力んでしまい、いつの間にかにパワーが入ってしまうこともありますから、最初の「パワー バック」はお忘れなく。




〈動画〉 アップライト フラット スピン

次は、機首姿勢を水平に近づける、アップライト フラット スピンです。時間的に余裕があり、精神的にストレスも少なく、次のスピン モードの順序としてはこれが候補に挙がります。




アップライト フラット スピン

先のアンタイ ロール エルロンを使用したエルロンアクセレレーテッド スピンでは、左右のどちらのスピンでも可能でした。主翼が水平になりますから、このままでもフラットであると表現できますが、何らかの方法で、機首をさらに上げることは可能でしょうか。解決方法はパワーを使用することで、プロペラ回転数が上昇し、発生するジャイロの摂動が大きくなり、また増加した推力によるテール ダウン フォースによって、さらに水平姿勢に近付きます。




ヨーイングとジャイロの摂動の関係

パワーを用いて機首姿勢を上げるときは、ジャイロの摂動による影響がどちら方向に働くかを理解していなくてはなりません。アップライト フラット スピンで求める力は上向きのピッチ アップの力ですから、スピンのエントリーは左ラダーからとなります。右ラダーを使用した場合は、例えエレベーターを最後方に維持していても、パワーを入れることで(回転数が上昇するため)機首が下がり、エレベーター アクセレレーテッド スピンと同じ状況になります。

機首姿勢はジャイロの摂動による影響が大きく、推力の増加による影響は意外にも小さいようです。効果的にフラット スピンとするには、推力を単に増加させるのではなく、プロペラ回転数を上げ、ジャイロの摂動を有効利用することが効果的です。単純にフル パワーにして推力を得ようとしても機体は大回りするだけですので、プロペラ回転数が最大値(コンスタント スピード プロペラ装備機はガバナー設定値)となる辺りを基準にして挙動を確かめます。




アップライト フラット スピン中の操縦操作

パワーを用いてのアップライト フラット スピンは、左ラダー エントリー + 右エルロンの入力で行われます。訓練初期では、右エルロンを入れるときについラダーが緩んだり、反対の右ラダーを踏んでしまうことがよく見られます。また、乱暴な入力は振り子運動を発生させますから、挙動をみながら少しずつ入力するよう心がけます。

このスピンもこれまでと同様に、アップライト フラット スピンからのリカバリーも、P. A. R. Eで行えます。P. A. R. E.はやはり有効なリカバリーの手順です。



ノーマルとフラットの2種類のアップライト スピンを経験して、次はスピン中にエレベーターをアンロードしてスピンの旋転を加速させる、アップライト アクセレレーテッド スピンです。パワー操作をせずに、エレベーターの入力のみでモードの変化を見ますから、左右のどちら側のラダーからでも行えますが、アイドル状態とはいえプロペラは600 - 1000 RPM程度で回転していますから、アップライトであれば右ラダーからのエントリーがより顕著に現れます。




〈動画〉 アップライト アクセレレーテッド スピン、エレベーター アンロード (無音)

音声システムの状態が悪く、無音での録画となってしまいました。ここでは、右のアップライト ノーマル スピン中にエレベーターを前方へ押し、アンロードさせ、スピンを加速させています。「Spinを考える 1」で紹介した通り、機首姿勢が下向きになり、機軸がフライト パスに近付くことでスピンの旋転速度が速くなっていきます。

スピン中のエレベーターの入力がどのような影響を与えるか。さらに、スピン リカバリーではなぜ「ラダー、エレベーター」の順で行うのか、逆にするとどうなるのか、実体験で確認できます。




アップライト エレベーター アクセレレーテッド スピン中の操縦操作

ここでは左ラダーが入っていますが、左へのスピンとしてお考えください。アップライト スピンでありながら、エレベーターは最前方まで押されています。この状態でもアップライトでのスピンが継続している、とても不思議な現象です。

では、ここからリカバリーを行うとどうなるのでしょうか。「P A R Eの操作を身に着けておけば、どのようなスピンからでも確実に回復できます。」との言葉を信じて、行ってみましょう。




では、リカバリー!



P (パワー バック)



A (エルロン ニュートラル)



R (ラダー オポジット)、右ラダーを蹴ります。



E (エレベーター アンロード)、エレベーターを後方から中立位置へ。
・・・おや?

もうお分かりいただけたでしょうが、アップライト エレベーター アクセレレーテッド スピンを行うと、エレベーターはすでに最前方に押されていますから、ここから直接リカバリーを行うと、「ラダー、エレベーター」の順序が逆になり、P. A. R. Eの手順を守ることができません。



訓練生: なぜ?P A R Eを確実に行えば、スピン リカバリーが出来るって言っていたじゃないか!
私: そうだけれど、エレベーターでアクセレレートさせた場合は、まずノーマル スピンにモード変化させなくてはいけないんだよ。
訓練生: じゃあ、P A R Eじゃなくて、E + P A R Eとすべきということ?ややこしいなあ・・・。


実際には、上空でブリーフィングなしに、スピン中にエレベーター アクセレレートさせることはありませんが、この矛盾点にはいつも悩まされます。



ただ、高度の低下は大きくなるとしても、PittsやExtraなど高性能曲技飛行機では、大まかな操作が正しければ、少々順序やタイミングが間違っても、どのようなスピンからでも確実な停止が可能です。残念ながら、ここが高性能曲技飛行機でスピン トレーニングを行うことの負の部分で、安全なスピン トレーニングが約束された反面、正しい操作の重要性が身に付かないことが問題です。高性能曲技飛行機に乗る飛行士が、意外にも飛行の基礎を疎かにしているのは珍しいことではありません。




American Champion Aircraft 7ECA 「Citabria」



私自身の希望としては、挙動がU類やN類の飛行機に似た、7ECA 「Citabria」や、C-152A 「Aerobat」などでのスピン トレーニングをお勧めしたいのですが、機体料金が3倍なら3倍の貴重な経験が付けられると信じて来る方は後を絶ちません。「Extra 300Lに乗るんだ!」と、目を輝かせるお客に、私はどう答えるべきなのか。高性能であることが常に望ましいことではないと理解していただくことは難しく、とても悩みます。

長くなりましたので、今回はこの辺で。次回はP A R Eの問題の解決策について、です。



   〈追記〉

「ストールは継続しているのだから、スティープ スパイラルと呼ぶことは不適切ではないか?」と疑問に思った方もいらっしゃることでしょう。スティープ スパイラルは本来スピンの対語として用いられる言葉で、ストールはしていないこととされています。では、プロ ロール エルロンを加えたスピンのような、ストールしながらの、非オートローテーションの旋回降下はどう表現するのでしょうか。オートローテーションではないためにスピンではなく、ストールしているために本来の意味でのスティープ スパイラルでもありません。






現在は、ストールしていなければスティープ スパイラル、ストールしていればスピンという分類がされていますが、正しくはオートローテーションの有無とすべきではないかと思います。リカバリーの手順からから考えても、オートローテーションの有無で判断が分かれます。私に航空力学の教科書を書き換える力はありませんが、こうして疑問に思うことは多々あるものです。


4 件のコメント:

CFI-JAPAN さんのコメント...

遅れましたが "A Happy New Year"

最近はコメントしてませんでしたが、わざわざこちらの掲示板に書き込みをして頂き、ありがとうございます。

新年はAirshowのチャンスが有ると知り、嬉しく思います。

今年の私は年男。 人生の折り返し地点を過ぎちゃったと考えると寂しい物です。

新年もよろしくお願いします。

CFI-JAPAN さんのコメント...

一つ質問を。

記事を読んだ訳では無いのですが・・・・・

高木さんのFlat Spinの定義って何でしょうか?

何故この様な質問をするかと言いますと、昔、Sna Jose Stateの授業でFlat SpinはUn-Recoverableと学んだのです。 一例として、Flat Spinに入ったLight Twinが無線で助けを求めたが、交信を中断したAir Linerは聞くだけで何も出来なかったとの話を聞いて、強烈な記憶が残っています。

確かに、真横から風が来ると翼や尾翼が何のリフトを発生しなくなり、操縦面のききが無くなるのは想像できます。 そしてプロペラでもジェットでも、本当の真横からの風だとThrustが無に等しくなるのも想像は出来ます。

その話をした教授はFlat Spinに入ったという人間が居たら、それはFlatに近いだけでFlatでは無いと言ってた様な記憶も残ってます。 もしかしたら、W+Bの問題で発生したFlat Spinの場合だったのかも知れません。

でも、去年はAOPAの雑誌にInverted Flat Spinの世界記録樹立って記事も有って、Flat Spinの定義って何だろう。 もしFlat Spinに入った場合のRecoveryは何だろうと疑問に思います。

プロの目からして、Flat Spinって何だと思いますか? Recoveryは簡単な物でしょうか。 それともRecoveryが可能なのはAcrobatic Airplane独自の機能なのでしょうか

Yuichi Takagi さんのコメント...

上田さん

あけましておめでとうございます。

書き方に注意したつもりでしたが、Flat Spinについて少し言葉が足りなかったように思います。意見を頂かなかったらそれに気付くことはなかったことでしょう。ありがとうございます。

曲技飛行機で飛行士の意思で行うFlat Spinはある意味擬似的なもので、映画「Top Gun」のF-14のように、Autorotationの後に飛行機が自発的にFlat Spinに移行していくものとは大きな違いがあります。

次回の「Spinを考える 5回目」で、解説を加えてみます。しばらく時間をいただけると助かります。

髙木

CFI-JAPAN さんのコメント...

高木さん、どうもです。

書き方の疑問じゃ有りませんよ。高木さんの説明が悪いとかは思ってません。大衆のFlat Spinに対する考え方って何だろうって気になったのです。

Flat Spinの定義は以前から疑問に思っていました。 Un-Recoverableってのが、Flat Spinの一つだと思っていたのですが、違う意見もチラホラ。 あのAOPAの雑誌でもFlat SpinはRecoverできる様な書き方。

まあ、Flat Spinと言っても人間の目で見たFlatとAir Flowから見たFlatが有るのかなと思ったり。水平線に対してのFlatなら、AirstreamはFlatとは限らないしね。

あの教授いわく、Twinで片肺にしても気流でプロペラが機能せずRecoveryは出来無いのがFlat Spin。でも、片肺で回転を止めれると言う人も。

定義によって違うんだろうなと想像はしてるんですが、確認する術が無くて。

私が考えたのは、操縦によって故意に起させたFlat Spinと、何からの事故でCGが思いっきり後ろに行ってしまった場合。そして見せてもらったStallを供もなわ無いFlat Spinで慣性の影響が強い場合が有るのかなと考えています。