2015年4月9日木曜日

Aerobatic Channel Q&A 2




Q. Bellanca 7GCBC Citabriaの飛行について。Before Landing CheckでOnにしたCarburetor Heatは、接地直前でOffにする方法と、Onのまま着陸して、着陸完了後にOffにする方法と、どちらが好ましいのか。



A. 7GCBCのPOHによると、着陸前のBefore Landing CheckではCarburetor HeatはOnと指示されていますから、確認する時点ではOnであるべきです。このPOHの指示を厳密に守ればOnであるべきでしょうが、しかしShort FinalでOffにしてはいけないとも書かれていません。どちらが好ましいのでしょうか。

私が過去に訓練を受けたり、勤務した飛行学校はおよそ15校。その全てがアメリカにおいてです。それぞれが異なる方針を持っていましたが、全てが「Carburetor HeatはOnのまま着陸し、着陸完了後にOffにする。Touch & GoならPower On時にOffに。Go Aroundなら上昇時にOffにする。」としていました。




外気温度と湿度によるCarburetor Iceの危険性



なぜ、Carburetor HeatをOnのまま着陸するのか。それは以下の理由から、危険を最小限にできると考えられるからでしょう。

1. それまでに安定したEngineの運転が行えているのなら、必要がない限り、状況を変えることは避けるべき。

航空機の運行で最も危険度が高いのは、整備作業の直後の試験飛行時である、などと言われるように、時として状況を変更することは故障や不具合の原因になるものです。着陸を前提にApproachしているのなら、Short Finalという最も危険度の高い時点で、Carburetor Heatを操作することは避けるべきと考えます。

では、「Go Around時の上昇中にCarburetor Heatを操作することも危険ではないのか?」と問われれば、確かにその通りです。実はOnのままGo Aroundし、以降は触れずに着陸することが正しいのかもしれません。




WACO YMFでの遊覧飛行。何と美しい海岸線!

・・・などと感動している余裕は私にはありません。湿度の高い場所を飛行し、そして周囲に緊急着陸を行える場所もなければ、Engineの運転状況は普段以上に監視します。Carburetor Heatを小まめに操作して、Carburetor Iceの存在の有無を見定めます。



2. Carburetor Icingは空気中に水分が存在すれば、季節に関わらず発生する。Carburetor Icingは予防が重要である。

Carburetor HeatはCarburetor Icingの予防を目的とした「Anti-Ice System」の役割と、除氷を目的とした「De-Ice System」の両方を担っています。気温の高い夏だから、冬の乾燥した季節だから、巡航中だから、Carburetor Heatは不要という意見も耳にしますが、私は賛成しかねます。私が担当した訓練生の一人は真夏のXCの巡航時にCarburetor Iceを起こして緊急着陸をしましたし、私自身は地上での冬の暖機運転中にCarburetor Iceになったことがありました。

教科書によると、Carburetor Iceは気温-5度Cから+20度Cの間で発生しやすく、低出力時はCarburetor内部の流入空気の経路が狭くなるために危険度が増すと言われます。加えて、Approach中は低出力のためにExhaustの熱も低めで、Carburetor Heatの性能も低下し、危険要素はさらに増大しますから、Carburetor Heatは積極的に使用するべきと考えます。Carburetor HeatにDe-Iceとしての機能があっても、Engineが止まってしまっては除氷はもう行えません。




Piper J-3 Cub

装備されているContinental A-65-1 Engineは最大出力65HP@2,300RPM。小型で低出力のためか発熱量が少なく、Carburetor Heatを使用していても、Touch & Goを繰り返すと時折Carburetor Icingを起こします。



Carburetor HeatをShort FinalでOffにするという方法を用いる理由にはどのようなものがあるのでしょうか。

1. Go Aroundに素早く移行するため。

2. Go Around時にCarburetor Heatを使用していると、出力が不足し、安全に上昇できない。




North American T-6の操縦席




T-6の操縦席内部。指差した黄色いLeverがCarburetor Heatです。緊急時を除いて使用することはありませんが、Shoulder Harnessを締めていると手は届きません。



1については、Carburetor HeatのLeverがどこに装備されているのか、操作にどれだけの手間がかかるかにもよることでしょう。手を伸ばさないとCarburetor Heat Leverに届かない、または操作が複雑なら、Go Aroundを安全に行うためにも、Work Loadを減らすためにも、着陸直前に行うべきという意見も理解できます。

しかし、着陸直前という非常に危険度の高い状況で複雑な操作を行うこともまた問題で、次には着陸前のさらに余裕のある時点で操作するという解決策に落ち着くことでしょう。次第にCarburetor Heatの使用時間が少なくなり、複数回の滑空機の曳航やTouch & Goを繰り返し行っていれば、Carburetor Iceの蓄積は避けられません。

では、質問にあったCitabria各種のCarburetor Heatの操作はどれほど難易度が高いのでしょうか。この機種ではThrottle Leverの下にCarburetor HeatのLeverが並ぶように備えられており、手のひらで両方のLeverを同時に、瞬時に操作することが可能です。(下写真参照) 操作に難しさは全くなく、着陸直前に操作をしなくてはならない理由はどこにもありません。これはCessna 152や172も同様と考えられます。




American Champion Aircraft 7ECA Citabriaの操縦席。左側にThrottle LeverとCarburetor Heatが並んでいます。



2については、もし十分なPowerが得られなければ、Go Aroundは安全に行うことが難しくなることは周知の事実です。Lycoming EngineでEngine Runup時に、1700RPMでCarburetor Heatを使用すると、およそ50RPMの低下が見られます。この低下を目安にCarburetor Heatの作動状況を確認するわけですが、2700RPMのFull Power/Max RPMでの運転時に100RPM程度の低下があったとすると、出力低下は5%以下、150HPの7GCBCなら142HP程度になるだけのことです。

Density Altitudeの高い場所でのGo Aroundでもない限り、とても危険があるとは思えませんし、出力不足がStall、Spinを引き起こす訳ではなことも、このBlogをお読みになっている方々ならお判りいただけることと信じます。




WACO YMF



というわけで、「Carburetor HeatはOnのまま着陸し、着陸完了後にOffにする。Touch & GoならPower On時にOffに。Go Aroundなら上昇時にOffにする。」が私の意見です。

ご質問、ご意見、反論などありましたら、ぜひどうぞ。お待ちしております。