2023年11月29日水曜日

レッドランズ エアロバティック カップ

2022年のUSナショナル エアロバティック チャンピオンシップス


南カリフォルニアでは9月と10月に2つの曲技飛行競技会が開催されます。9月1日から3日にレッドランズ飛行場で開催されるレッドランズ エアロバティック カップ、そして10月12日から14日までボレゴバレー飛行場で開催されるアクロフェストです。



2022年のUSナショナル エアロバティック チャンピオンシップス


さらに、9月24日から30日までカンザス州サライナでのUSナショナル エアロバティック チャンピオンシップスがあり、Team Japanの2人はこれらに出場し、トレーニングキャンプと組み合わせWAACに備える計画です。



Grove Aero Service @ CA州レッドランズ飛行場


まずは、同じくレッドランズの競技会に参加する晴美さんの飛行機の整備です。燃料タンク周りの整備と、エルロン スペードを調整してロール性能を向上させる試みです。競技会まであと数日。最高気温40℃+という暑さの中、作業をがんばりました。



「これがスパークプラグか・・・」 お手伝いありがとう!


暑いといっても、今年は比較的過ごしやすい夏です。例年は青空が続き、45℃を超えるCA州の夏ですが、今年はせいぜい40℃前後。ただ、雲が多い、曲技飛行の練習には悩まされる日が続きました。



シーリング3,000ft・・・ 待機が続きます。


ここレッドランズの練習空域はレッドランズ飛行場の北西約2マイルのところにあり、とても便利です。離陸して上昇、曲技飛行が可能な高度に達する前に練習空域に到着します。このAPA(Aerobatic Practice Areaの略)はFAAから許可を受けた空域で、使用は登録した者と航空機に限られます。練習空域の使用をご希望の方は事前に連絡ください。



離陸し、Right Downwind Depで出発して2 Miles、すぐに練習空域です。



エルロン スペードの調整と試験飛行を繰り返して・・・



グッド! だそうです。



2日間の練習の後、私と遠藤さん、晴美さんの3人はレッドランズ飛行場の曲飛行競技会に参加しました。しかし天候がよくありません。雲が2,500ft AGL辺りにあり、さらに雨雲が何度も通り過ぎ、待機が続きます。昨年は猛暑の中の競技会でしたが、今年は悪天候に悩まされました。



今回はVeloxで単独で競技に出場する晴美さん。ボックス内に雲がある中、高度をしっかりと管理して飛行しました。Veloxでの初競技飛行おめでとう!



そして雨。雨で競技が中止になるなど、CA州では初めてのことではないかと思います。 一同「おおー、雨だ!」



1日目はKnownを飛行したのみで終わってしまいました。どうやら明日も同じような天候になる予報ですので、2回目のFreeは削除し、Unknwonを飛行して競技成立とする計画です。



スポーツマン カテゴリに出場する、Great Lakes 2T-1AとPitts S-2C。



残念ながら、遠藤さんの愛機Extra 300は整備になり、今回は晴美さんのVeloxを使わせていただくことになりました。Extra 300とは飛行特性が大きく異なる飛行機ですが、限られた練習期間の中がんばりました。



いつも安定した飛行を見せるマイクさん。アドバンスト カテゴリでは強豪の一人です。この競技会ではアドバンスト カテゴリ1位でした。おめでとうございます。



競技中断です。隣のサンバナディーノ空港への貨物機が通過します。大型機がタイトにビジュアルアプローチをする様は迫力です。



今回の競技会のリザルトが発表されました。2人でワンツーフィニッシュを目指しましたが、それは叶いませんでした。



プライマリー カテゴリで3位に入賞の晴美さん。おめでとう!





少々残念な結果になった今回の競技会でした。WAACまであと1か月と少し。2人とも練習飛行に気合を入れます。明日からまたトレーニングキャンプです。

2023年11月27日月曜日

世界選手権に出場するには

 


WAACの話題に上るようになった2年ほど前から、「WAACに出場したい」という相談を受けるようになりました。曲技飛行や曲技飛行競技、そして世界選手権に興味を持ってくれるのはうれしいことです。今回はWAACなどの世界選手権に出場するための承認などについて記述します。





前述のように、エアロバティックスはFAI(国際航空連盟)傘下のCIVA(Commission Internationale de Voltige Aérienne、発音は「シーヴァ」、英語では簡素にFAI Aerobatic Commission)が管理しています。FAIはスカイスポーツを統括する国際機関で、設立は1905年。空を飛ぶことが夢のさらにまた夢だったころ、航空がスポーツとしても発展することが予期されていたのでしょう。エアロバティックスの他には以下のスカイスポーツがFAIに登録されています。


エアロモデリング(R/Cや紙飛行機など模型航空機)

アマチュアビルト・エクスペリメンタル航空機(自作航空機及びエクスペリメンタル航空機)

バルーン(気球)

ドローン(無人航空機)

ジェネラル エイビエイション(GA、一般航空)

グライダー(滑空機)

ハンググライディング

マイクロライト及びパラモーター航空機

パラグライディング

エアロバティックス(曲技飛行)

ロータークラフト(回転翼航空機)

スカイダイビング

スペース(航空宇宙)


国際的な選手権に出場するためにはスポーティングライセンス(Sporting Licence、「Licence」と綴りが異なります)の所持が求められます。このスポーティングライセンスを管理する機関はNational Airsport Control(NAC)で、一般財団法人 日本航空協会(JAA)が担当しています。スポーティングライセンスは公益社団法人 日本航空機操縦士協会(JAPA)が統括団体として管理し、要請を受けたJAAが発行するという形式となっています。




スポーティングライセンスの一例



スポーティングライセンスの発行には以下の条件を満たさなくてはなりせん。

1. 日本国籍を保持していること、または長期に渡り日本に滞在している外国籍の方

2. 曲技飛行の統括団体JAPAの会員であること

3. FAI スポーティングコードを熟知し、遵守できること





さらに、世界選手権に日本代表として参加するには、以下の基準を満たし、JAPA及びJAAの承認を受ける必要があります。

1. JAPAの会員であること

2. 有効なスポーティングライセンスを所持していること

3. 競技に必要な技量レベルを維持し、日本代表として適格であること

4. 競技ルールを熟知し、競技会参加に必要な機材、人材、物資等の調達ができること

5. 公認の記録、又は FAI スポーティングコードに準拠した競技会で、60%以上の公式記録を保持していること

6. 開催地での競技飛行に必要な有効なライセンス等を保持していること





世界選手権に日本代表として参加せず、Hors Concours(自由参加、略してH/Cと表記される)としての参加方法もあります。この場合はJAPA及びJAAによる承認は不要ですが、世界選手権でアンノウンフィギュアの選出で優先順位が下となるなど、いくつか不利な点があります。





以上が世界選手権に参加する条件や基準ですが、特に精査されるのは技量や過去の成績に関する部分です。曲技飛行という本質と、世界選手権という催しでありからでしょう。





では、操縦士資格はなく、曲技飛行も未経験、過去に競技飛行経験がない方が参加する場合はどうでしょうか。「来年のWAACに選手として参加したい。可能性があるならぜひ挑戦したい。」という相談を数人の方から受けました。WAACまで2年を切っていても参加は可能でしょうか。


可能性はあるでしょう。WAACの開催は2023年10月。スポーティングライセンスの発行に2か月かかるとして、成績を遅くとも7月までに満たし、申請を行えば間に合います。ただ可能性を現実とするには、少なくとも以下のような計画で、いくつもの段階を乗り越えることができれば、可能性を初めて可能性と、そして実現させることができます。


2022年

春 自家用操縦士資格取得

夏 曲技飛行訓練、尾輪式飛行機訓練、曲技飛行競技 スポーツマン カテゴリに参加

秋 曲技飛行競技 インターミディエイト カテゴリに参加

冬 曲技飛行訓練 アドバンスト カテゴリの準備


2023年

春 曲技飛行競技 アドバンスト カテゴリに参加

7月 曲技飛行競技 アドバンスト カテゴリに参加し、60%以上の成績を受ける

9月 スポーティングライセンスと参加承認の取得、参加登録


少なくとも毎月2週間を曲技飛行が可能な環境で過ごし、訓練を継続することが必須と考えられます。飛行訓練は天候に左右されますから、予定通り訓練が進むとは限りません。通常の方が5‐6年かける道のりを、1年という期間で進む訳ですから、大変な忙しさとなるはずです。費用($60,000+?)を解決でき、それでも可能性にかけたいというのであれば、ぜひ協力したいと思います。





残念ながら、ここまで説明したところで彼ら質問者からの連絡は途絶えてしまいました。仕方もないことでしょう。それは例えれば、空手の心得もない私が、「来年の空手の世界選手権に出場する」と計画するほどに無謀なことですから。


髙木と遠藤の2人は3月にスポーティングライセンスを取得し、後に日本代表としての参加も認められました。鐘尾みや子さんのご助言とご協力に心から感謝します。


参考

FAI https://www.fai.org/

FAI Aerobatic Commission(CIVA) https://www.fai.org/commission/civa

FAI CIVA(詳細な情報はこちら) https://www.civanews.com/

JAPA 公益社団法人 日本航空機操縦士協会 https://www.japa.or.jp/

JAA 一般財団法人 日本航空協会 スポーティングライセンスの申請について https://www.aero.or.jp/sports/request/

2023年11月19日日曜日

Team Japan、WAACへ



10月24日から11月4日までネバダ州ジーンで開かれた第15回WAAC(World Advanced Aerobatic Championships、世界アドバンスド曲技飛行選手権)は、多くの方々の支援と協力を受けて成功裏に終えました。私、髙木雄一と遠藤宏泰はTeam Japanとして参加し、これはJAPAの関係者の方々や、アドバイザーの鐘尾みや子さん、現地でご協力いただいた佐藤晴美さん、そして応援してくれた日本の曲技飛行仲間の皆さまのお陰です。ありがとうございました。





WAACは2年に一度、CIVA(FAI、国際航空連盟の曲技飛行部門)の管轄で行われる曲技飛行選手権の一つです。他に、アンリミテッド カテゴリで競われるWAC、インターミディエイト カテゴリのWIAC、滑空機曲技飛行競技の世界滑空機曲技飛行選手権(WGAC、World Glider Aerobatic Championships)とアドバンスト カテゴリとして同時開催されるWAGAC、ヨーロッパ選手権として行われるEACやEAACなどがあります。





選手権は曲技飛行競技の盛んな国々が集まるヨーロッパで開催されることが多く、ここ10年を振り返ると、チェコ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、ハンガリーなどの国名が上がります。航空文化に理解があり、現地の各団体から協力が得られること、飛行場の設備が整っていること、騒音問題に懸念がない、物価が比較的安価で、期間中の安定した天候が見込まれる、また各国からのアクセスが容易なことなどを考慮して、CIVAの会議で決議を通して決定されます。





ヨーロッパからの参加を考えると米国は地理的に不利ですが、米国でも十数年に一度の頻度で世界選手権が開催されています。2008年オレゴン州ペンダルトンで開催された第8回WAAC(当時の呼称はAWAC)には日本から内海昌浩氏が参加しました。2013年はテキサス州シャーマンで第27回WACが開かれ室屋義秀氏が参加しました。





内海氏は2010年にポーランドのラドムで開かれた第9回WAACにも参加しました。他に日本人が参加した選手権は、2012年のハンガリーのニーレジハーザでの第10回WAACに室屋氏と岩田圭司氏が、日本チームを結成して出場しました。





WGACでは、日本女性航空協会の理事長を務める鐘尾みや子氏と数名の選手が日本チームとして参加しました。2009年からは梶智就氏が常に上位に成績を連ねる競技者として、過去何年もの間WGACに参加しました。現在は酒井隆氏がWAGACに毎年日本代表の選手として参加し活躍しています。





今回のWAACは当初2022年に行われる予定でしたが、2020年に世界を騒がせたCovid-19の影響で1年遅れて開催されました。日本の曲技飛行愛好者の多くはここ米国で活動していることもあり、15年ぶりのWAACは、米国内の競技者だけでなく、日本からも関心も呼びました。





前述の競技者に加え、アドバンスト カテゴリの飛行技量を持つ日本人競技者は5-6人いますから、日本人競技者でチーム結成も可能です。日本人ジャッジやコーチを育成し、WAACにTeam Japanを送ろう!トレーニングキャンプを通して、最強のTeam Japanを結成しよう!





・・・という声も数年前まではあったのですが。景気、またはCovid-19の影響でしょうか。最終的には、上記の髙木と遠藤の2名が選手として残りました。コーチングは互いに行うとして、資金援助のスポンサードに頼らず、現地での実質的なサポートを受けず、2人の小さなTeam Japanを結成しました。





そして8月下旬。

私はオレゴン州でのエアショーイベントを終え、そのまま南カリフォルニアのレッドランズに向かいました。遠藤さんも日本から到着し、久しぶりの再会を喜びます。Team Japanの、WAACへの旅の始まりです。