2013年5月30日木曜日

Recreational Aerobatics VS Competition Aerobatics


「本当に君は競技指向だね」

以前、仲間の1人からこんな言葉をいただいたことがあります。私は競技飛行を行っていて、それに向けての訓練も提供し、競技会では審判活動も行っています。こんな人間ですから、誤解を受けることも仕方のないことでしょう。

私は、曲技飛行競技は空想の世界だと考えています。競技規則と競技空域の中に構築され、現実世界から隔離された、ファンタジーの世界です。「競技指向」という呼び方には、何かストイックな格好良さがありますが、現実世界で求められる、実践的な技術とは大きく異なる飛行をすることには、常に何か違和感を感じます。私にとって、曲技飛行競技はそれ単体で存在することはありません。




一般的に、曲技飛行はRecreational Aerobatics(レクリエーショナルエアロバティックス)と、Competition Aerobatics(コンペティションエアロバティックス)の2種類に大きく分けられます。

1. Recreational Aerobatics
「recreational」の訳は「娯楽」という言葉が当てはまりますが、おそらくCompetition(競技)という言葉に対して付けられた名称ではと思います。休日に、開放感を求めて行う曲技飛行は正に娯楽が目的でしょう。また、娯楽の要素はなくても、基礎曲技飛行訓練や、軍の曲技飛行訓練も多くの場合はRecreational Aerobaticsです。

Recreational Aerobaticsでは、LoopやRollなど、曲技飛行と認識された飛行のManeuverの特徴を保ちつつ、多くの場合はLoad (荷重)を可能な限りPositive(正)とし、Coordination(釣り合い)を保ち、機体や搭乗者への負担を最小限にして行われます。もちろん、「強いLoad Factorを楽しみたい」、「Negative Gを経験してみたい」という希望に沿う飛行も間違いではありませんが、やはり競技飛行の判定基準を考慮しない飛行であることには変わりありません。


 
Basic Aerobatics in a 7ECA Citabria

Recreational Aerobaticsの映像の一例。Positive GとCoordination(釣り合い)が保たれていれば、コップの水もこぼれることはありません。いつかはBob Hoover氏のように、曲技飛行中に紅茶を注げるような技術にまでなりたいものです。


2. Competition Aerobatics
上のRecreational Aerobaticsのように、単純にLoopやRollを行うのではなく、全てが競技飛行の判定基準に基いて行われます。対象はJudge(競技審判)であり、飛行士は10点満点の飛行を目標に、機体の性能範囲内で最大限の努力します。Load Factorが激しく変動し、Coordinationが崩れ、搭乗者にとって不快な飛行になったとしても、そこに妥協はありません。


(注) ここでは、どちらにも分類されないLomcevakやKnife Edge Spinなど、いわゆるTumble Maneuversは除外しておきます。これらTumble ManeuversはCompetition Flightでは用いられず(4 minute freestyleは除く)、かつNegative GやCoordinationから外れた飛行を行うため、第3の曲技飛行として区別したいと思います。




Recreational AerobaticsとCompetition Aerobatics、どちらも曲技飛行であることは確かですが、飛行士はどちらの形で行うか、まず飛行の目的を確立させておくべきです。例えば、小型飛行機に乗ることは初めてという友人と曲技飛行を行うとして、高いLoad Factorをかけ、真円のLoopである必要はありません。友人の体に負担をかけて、乗り物酔いをさせるよりは、Loopの定義である「縦方向の360度の旋回」を緩やかに行い、飛行を楽しんでもらった方が嬉しいものです。

Spinも同様です。Spin Recovery後に、垂直に降下してVertical Down Lineを描くCompetition Styleは、低高度での不意のSpin Recoveryには不適切です。競技会に向けて練習飛行を行っているのに、正確なDown Lineが確立されていなかったり、Emergency Spin Recoveryを行っているのに高度を大きく失うような飛行は、明らかに目標を見失っている飛行と言えます。前者は曲技飛行の経験はあるが、競技経験の浅い方に多く、後者は競技経験がありながらも、飛行に対する理解が乏しい方に多いようです。

私が曲技飛行を上のように2つに分類したい理由は、曲技飛行訓練の目的と最終的な目標を確保し、訓練を有益なものとしたいという希望からです。Recreational Aerobaticsを訓練を通して重力とCoordinationの研究を。Competition Aerobaticsと競技参戦を通してControl Authorityの研究を。さらに、どちらも正確さという目標を加えて訓練することで、今後の飛行の幅は大きく広がることでしょう。

Recreational AerobaticsとCompetition Aerobatics。これら2つを通して飛行技術を重ねて、私は自身の目標を極めたいと思っています。その目標とは、水平直線飛行を極め、そこでの性能を最大限に発揮すること、です。

2013年5月25日土曜日

雨の匂いに


今日は、Air Show PilotであるSean D. Tuckerの飛行機と他2機を会場まで運ぶ、Ferry Flightに加わります。
行き先はNY州Farmingdale、Republic空港です。



Oracle Challenger III。
Pitts S-2S、またはS-1-11Bに似ていますが、
新しい設計の、全く異なる飛行機だそうです。



私はExtra 300Lの前席で操縦を、後席は航法を担当します。
東海岸まで2日間、約16時間の飛行です。
2人での飛行ですから、いろいろと景色も楽しめることでしょう。



AZ州Flagstaffの東にある隕石のクレーター。
http://www.americansouthwest.net/arizona/meteor_crater/index.html



途中、頂上が平らな山がいくつも見られました。
地層の関係でしょうか?NM州Grantsにて。



KS州Liberal Mid-America空港。
3回目の燃料補給です。
追い風もあり順調です。



2日目朝、MO州Jefferson City空港。
霧のため離陸できません。待つこと2時間。



Challenger IIIは静安定を負として設計されているらしく、高度維持が難しいようでした。
 
どれほど不安定かと、試しに操縦桿から手を離したところ、姿勢変化を続けてLoopをしたそうです。
この飛行機で長距離を巡航飛行するのは相当な労力でしょう。



NJ州に入りました。
Ceilingは2,500ft AGL-3,000ft AGL。
目的地のNY州Farmingdaleはもうすぐです。



NY州FarmingdaleのRepublic空港に到着しました。
雨の中がんばって飛んでくれてありがとう。



滑走路の向こう側を見る。
実は、2000年から2001年にかけて、ここRepublic空港で飛行教官をしていました。
青い建物が職場だったSUNY(State University of New York)の校舎です。



NY州Baldwin。
雨の匂いと共に、懐かしい思い出が廻ります。


さて、思い出に浸るのもここまで。
CA州に帰ったら、また仕事が待っています。

2013年5月15日水曜日

曲技飛行の定義



では、曲技飛行とはどのような飛行を指すのでしょうか。FAR(Federal Aviation Regulations: 連邦航空法規)のPart 91.303には、以下のような定義がされています。

“an intentional maneuver involving an abrupt change in an aircraft’s attitude, an abnormal attitude, or abnormal acceleration, not necessary for normal flight.”

(訳: 航空機の急激な姿勢変化、異常姿勢、急激な加速を含む、通常飛行では用いられない意図的な飛行)

航空機とは移動を目的に用いられる乗り物とすると、通常飛行とは、例えば旅客機に乗客として搭乗したときに経験する飛行です。離陸、上昇、巡航、下降、進入、着陸。それらで行われることのない飛行が曲技飛行と考えてよいと思います。




曲技飛行と認識されることはありませんが、この定義から言えば、失速、急旋回なども加わるのかもしれません。Lazy Eight(レイジーエイト: 姿勢を常に変化させながら行う、連続したS字旋回)やChandelle(シャンデル: 高度を最大限に獲得しながらの180度上昇旋回)などは曲技飛行の一種としていいでしょうし、身に付けておくと役に立つManeuver(機動)です。




航空機の本来の移動という目的から逸れて、それでも人々が曲技飛行を行う目的は何でしょうか。

1. 趣味として曲技飛行を楽しみたい。
2. 操縦技術を磨きたい。
3. 航空力学の研究に。
4. 操縦の苦手意識や、恐怖感を克服したい。
5. 軍や自衛隊の操縦士採用試験の準備のため。
6. 曲技飛行競技会に参加したい。
7. 将来はエアショーパイロットとして活躍したい。




様々な目的や目標がありますが、私の場合は5番を除いて全て当てはまりました。訓練当時の私は、基礎の操縦技量も不十分で、何とか飛行機を上手に操縦できるようになりたいと願ったものです。今では操縦技術に関して自信がつきましたが、これはただ単に飛行時間を増やすだけでなく、曲技飛行を行い、研究と実験を繰り返してきたからだと思います。




具体的に、どのような飛行を曲技飛行と呼ぶのでしょうか。通常飛行と曲技飛行に関わらず、または飛行機やヘリコプター、滑空機など航空機のカテゴリーの区別なく、飛行はLongitudinal Axis(縦軸)、Lateral Axis(横軸)、Vertical Axis(垂直軸)の3軸回りの動きを駆使して行われます。この運動を通常飛行に求められない領域にまで広げ、飛行士の意志と意図によって行われる飛行が曲技飛行です。




この「飛行士の意志と意図によって・・・」という部分が重要で、曲技飛行と呼ばれるためには、飛行が飛行士の意志と意図によって行われ、さらにそれらが複製可能で、ある程度の精度を維持したした飛行が繰り返し行える必要があります。「なぜ起きたのかよく判らないが、偶然興味深い飛行になった」という偶然の産物は曲技飛行とは認識されませんし、時としてそれは事故、または危険行為ですらあります。




先のFAR Part 91.303に規定してある飛行は、一般的に以下のようなManeuverが認識されています。


Roll(ロール): 機体の縦軸回りの運動を指します。曲技飛行でのRollは、通常飛行で旋回や進路修正などで行われるRollの範囲を超えたManeuverを呼びます。日本語では横転などとも呼ばれます。

Loop(ループ): 機体の横軸回りの運動であるPitch(ピッチ)変化を継続し、縦方向に機首方向を変えることで行われます。日本語では宙返りと呼ばれます。通常、旋回とは横方向への機首方向の変化を指しますが、縦方向へ旋回させるManeuverがLoopです。

Spin(スピン): 機体をStall(失速)させ、Yaw(垂直軸回りの運動)を加えることにより発生する、Autorotation(自転)です。木の葉が回転しながら落ちていく様子はAutorotationであり、Spin中の機体はそれ自身が回転する力を持って行われます。日本語では錐揉みと呼ばれます。

Snap Roll (スナップロール): 先のSpinに似たManeuverです。Spinが自由落下を伴って行われるAutorotationであるのに対し、Snap Rollは運動エネルギーを保ち、飛行経路をほぼ維持した状態で行われます。基本となる水平飛行で行われるSnap Rollは、Horizontal Spin(水平飛行で行われるSpin)とも表現されます。ヨーロッパではFlick Roll(フリックロール)と呼ばれます。Aileron(補助翼)を主に用いて行われるRollに比較して回転が早いため、Aileronを主に用いるRollを「Slow Roll」、Snap Rollを「Fast Roll」などと呼ぶこともあります。




以上の4つのManeuverはAerobatic Flightの4つの基礎です。全てのAerobatic Maneuversはこれらの組み合わせから成り立ちます。例えば、Immelmann Turnは、Loopを半分行い、頂上でRollを半分行ったManeuverですし、Barrel RollはRollにLoopのPitchingの要素を加えたManeuverです。これらを組み合わせ、新たなManeuverを作ることも、飛行士の想像力次第です。

2013年5月4日土曜日

曲技飛行と曲芸飛行




2009年11月に、ふくしまスカイパーク(福島県福島市)で試行された曲技飛行競技会を経て、2010年には第1回全日本曲技飛行競技会が開催されました。海外の競技会に比べれば、競技機も参加者も少ない、規模の小さなものでしたが、地上にマーカー(境界を示す印)を設置したボックス(競技空域)、公平な判定を行うための複数のジャッジ、そして判定を明確にする競技ルール。これらを備え、曲技飛行競技を競技として成立させた、おそらく日本で初めての競技会ではないかと思います。




曲技飛行を行うには、曲技飛行を行うことを認められた航空機と、曲技飛行の技量を持つ飛行士が揃うことで可能です。これを競技として成立させるためには、さらにボックス、ジャッジ、ルールが欠かせません。そして、競技会を実際に開催するためには、開催地の方々の支援が必要です。まだ航空文化が発展途上にある日本では、おそらく現地の人々の理解と協力を得ることが最も難しかったのではないでしょうか。全日本曲技飛行を開催し、成功することができたのは、ふくしまスカイパークの人々、福島市の皆様の支えがあったからに他なりません。この場を借りて、感謝の言葉を述べさせていただきます。


さて、これまでもこのブログ内で曲技飛行という言葉が幾度となく出てきましたが、この言葉に違和感を覚える方も多いことでしょう。航空に携わる方々や、航空ファンでもない限り、曲技飛行という言葉はあまり聞きなれないかと思います。むしろ、「曲飛行」の方が理解が早いかもしれません。私自身、ここアメリカにいて、Acrobat(アクロバット)、Aerobatics(エアロバティックス)、Aerobatic Flight(エアロバティックフライト)と言っても、一般の方々には理解すらされません。彼らの頭の上に疑問符がいくつか見えたところで、「エアロバティックスとは、飛行機で宙返りをしたり、背面飛行や、スパイラル(螺旋)など、一般の飛行機では行わない飛行をすることです。」と説明します。


ここで、映画などで見られる、軍の飛行訓練を想像していただければ助かるのですが、中には「ああ、それは見たことがあるよ。橋の下をくぐったり、結婚式で人々の上を低空飛行したりするんだね?」と、違う方向へ向いてしまうことも多くあります。これらはスタントフライト、またはサーカスフライトであり、日本語の「曲飛行」が当てはまります。曲技飛行とはちょっと違うのですが、小うるさく説明するか、相槌を打って軽く流すか悩むところです。それでも、私の日本の家族や親戚から、「え?1人乗りの飛行機なんてあるの?それじゃお客が乗れないじゃない。」とか、「・・・つまり、こういう飛行機に乗っているんでしょう?」と、TVに映ったジェット旅客機を指されたりするよりは話が早いかもしれませんが。



話がはずれましたが、このように曲技飛行と「曲飛行」を入れ混ぜて用いられることは多くあり、残念ながらまだまだ我々の努力不足でしょう。私の考える「曲飛行」は、先のような橋の下をくぐったり、狭い渓谷の間をすり抜けたり、そして航空祭などでエアショーとして飛行するものが該当し、魅力ある飛行で観客を楽しませるものを指すと考えています。共通するのは観客という対象が存在することです。



対して曲技飛行は、飛行技術の練成を目的に行うものです。安全を第一に、高度は十分に取り、町や集落を避け、万一の事態を想定し、パラシュートを装備して行います。自動車やオートバイで言えば、サーキットなどでの練習会や、走行会が当てはまるのではないでしょうか。こうして、得られた技術を互いに競い合うものが、空の芸術とも称される曲技飛行競技で、自動車レース・・・いえ、フィギュアスケートの競技会が適しているかもしれません。人目のつかないところで行われる曲技飛行よりも、「曲飛行」の方が一般の方々の目にする機会が多いのですから、理解不足も仕方のないことでしょう。


前述の全日本曲技飛行競技会は、昨年の2012年10月に行われた技会で第3回を数えました。開催する競技カテゴリーも年々向上し、2009年の試行ではプライマリーのみだったものが、2010年の第1回では難易度を高めたスポーツマンが加わり、2012年からはインターミディエイトを含めた3つの競技カテゴリーが行われました。最近は競技機と競技者も充実してきており、今年度の全日本では、さらにアドバンスドが開催される計画です。曲技飛行競技の理解を求めて、このブログで曲技飛行の紹介、競技ルールの解説などを行いたいと思います。退屈かもしれませんが、少しお付き合いいただけると嬉しいです。

2013年5月1日水曜日

新たな職場へ


今月から、新たな職場へ移ります。
場所は同じCA州内、King City空港の、Tutima Academy of Aviation Safetyです。

King Cityは、1995年当時、計器飛行証明や事業用操縦士資格の飛行訓練をしていたころ、XCで頻繁に訪れていたところです。
20年近く経って、ここに住むことになるとは思いもしませんでした。
こちらでは、機材の関係から基礎のTailwheel Trainingは行えませんが、Pitts S-2BとS-2C、そしてExtra 300Lを用いて、曲技飛行訓練を提供していきます。

引き続き、Redlands空港のJapan Aerobatic School (Westwind Flying Club)、そして日本の曲技飛行訓練にもお手伝いに伺います。
今後もどうぞよろしくお願いします。