2013年10月24日木曜日

安全に飛行を終えること



SNS大手のFacebookに、先日興味深い記事がありました。「着陸技術の向上に、着陸競技の開催を希望する。」と、毎年全日本曲技飛行競技会の実行委員長を務められている、奥貫 博氏によるお話です。安全な着陸なしに飛行を安全に終えることはありません。奥貫氏のご意見に大いに賛成です。

私は曲技飛行や尾輪式飛行機の飛行訓練を提供して8-9年になりますが、時折、行っている訓練内容に偏りを感じることがあります。それは、「安全に飛行を終えること」という目標を目指しているはずの訓練が、曲技飛行訓練が目的となると、途端に基礎操縦技術に関する部分に妥協が見られることです。

かなり端折った言い方になりますが、離陸した後、飛行中の予期しない状況(Stall、Spin)や飛行姿勢(Unusual Attitude)に陥ったとして、安全に、かつ効果的に回復し、最終的に飛行機を安全に着陸させるということは、飛行場の周辺を飛行するだけでも必要とされる基本的な操縦技術です。

一般的な訓練機であるCessna 172などの飛行機では、このような訓練は当然のように、資格取得後もBFR(Biennial Flight Review: 24ヶ月に1度行われる定期訓練)、Flight SchoolやFlying Clubの基準によって定期的に行われます。ところが、曲技飛行機を用い、訓練目的が曲技飛行となると、曲技飛行という要素に目移りしてしまうからか、途端に先に述べた要求する技術レベルが下がり、「安全に着陸できれば何でもよし」で済まされてしまいます。いや、技術レベルを下げているため、多くの場合、運よく無事に帰ることができただけなのですが。

私が技術レベルの向上を提言すると、「尾輪式飛行機、特に曲技飛行機は取り扱いが難しい。時間も限られるから仕方がない。」という意見が返ってきます。もし私が、週末にC-172を借りて飛行するサンデーパイロットだとして、「Stall Recoveryがどうしてもできなくて・・・。」、「Power off landingがどうしてもできない。」などと言おうものなら、一斉に周囲からの注意を浴びるはずなのに、なぜでしょうか。

行う訓練内容が、PittsやExtraを用いての曲技飛行であるならば、Recovery from Unusual Attitudesなどの訓練の必要性はもちろんのこと、Positive GとNegative Gの両方での飛行が想定されますから、それらの状況でのStall/Spin Recovery、つまりUprightでのStall/Spinだけでなく、InvertedでのStall/Spinを、PowerとControlの様々な組み合わせを用いて、StallとSpinのModeを変化させて実施します。「予期しない状況に陥った。結果、危険な状況になった。」などということは、訓練次第で避けらます。

着陸に目を向ければ、尾輪式飛行機の取り扱いには熟知している必要があります。Three Point Landing、またはWheel Landingのどちらかができればよいということはありません。状況によってどちらが適切か判断し、使い分けられることが必要です。Power off glideでのApproachができず、Forward Slip+Power onでのなだらかなApproachしかできないなら、Power Failになったときにどう対処するのでしょうか。飛行機は常にPower Failになる可能性があることを心に留め、特に単発機はいつでも滑空機に路線変更する準備が必要です。



空を飛行することは危険だ。
曲技飛行はさらに危険だ。
尾輪式飛行機は離着陸の操作が難しい。
だから、いつかは事故に遭ってしまう。
仕方のないことだ。



高価な保険費用、機体整備費、燃料費、駐機や格納庫費用、空域の制限・・・。「安全に飛行を終えること」という妥協のない努力が、私たちの抱える様々な問題点を解決するのではないでしょうか。訓練環境の充実をという提案に、私も賛成します。

2 件のコメント:

Okunuki さんのコメント...

試行及び第1回の全日本曲技飛行競技会では、曲技飛行用飛行機の着陸技術の向上を目指す「着陸競技会」を、一緒に実施していました。接地のエリアは幅12mx前後52mで、その中の前後2mの幅のラインををターゲットとするものです。
第2回の曲技飛行競技会以降は、実施カテゴリー及び参加者の増加から、着陸競技会の実施には無理があるため、実施していませんが、競技者の皆様には、曲技飛行以前に、安全確実な着陸技術をぜひ身に付けていただきたいと思っています。
それにより、飛行のすべてを自分自身の責任で行うことになり、飛行後の充実感はより大きなものとなり、操縦技術、メンタル等のあらゆる面で、パイロットとしての成長が得られると思っています。

Yuichi Takagi さんのコメント...

奥貫さん
貴重なご意見ありがとうございました。第1回の全日本で行われた着陸競技が私が目にした初めてでした。私が特に興味を持ったのは、Power offでの着陸課目です。単発機で飛行するなら、自機の滑空性能は特に熟知しているべきですが、この競技はその感覚を養うよい機会になることでしょう。そして、滑空性能外ではいつでも警報が鳴るようにしたいものです。