2009年11月に、ふくしまスカイパーク(福島県福島市)で試行された曲技飛行競技会を経て、2010年には第1回全日本曲技飛行競技会が開催されました。海外の競技会に比べれば、競技機も参加者も少ない、規模の小さなものでしたが、地上にマーカー(境界を示す印)を設置したボックス(競技空域)、公平な判定を行うための複数のジャッジ、そして判定を明確にする競技ルール。これらを備え、曲技飛行競技を競技として成立させた、おそらく日本で初めての競技会ではないかと思います。
曲技飛行を行うには、曲技飛行を行うことを認められた航空機と、曲技飛行の技量を持つ飛行士が揃うことで可能です。これを競技として成立させるためには、さらにボックス、ジャッジ、ルールが欠かせません。そして、競技会を実際に開催するためには、開催地の方々の支援が必要です。まだ航空文化が発展途上にある日本では、おそらく現地の人々の理解と協力を得ることが最も難しかったのではないでしょうか。全日本曲技飛行を開催し、成功することができたのは、ふくしまスカイパークの人々、福島市の皆様の支えがあったからに他なりません。この場を借りて、感謝の言葉を述べさせていただきます。
さて、これまでもこのブログ内で曲技飛行という言葉が幾度となく出てきましたが、この言葉に違和感を覚える方も多いことでしょう。航空に携わる方々や、航空ファンでもない限り、曲技飛行という言葉はあまり聞きなれないかと思います。むしろ、「曲芸飛行」の方が理解が早いかもしれません。私自身、ここアメリカにいて、Acrobat(アクロバット)、Aerobatics(エアロバティックス)、Aerobatic Flight(エアロバティックフライト)と言っても、一般の方々には理解すらされません。彼らの頭の上に疑問符がいくつか見えたところで、「エアロバティックスとは、飛行機で宙返りをしたり、背面飛行や、スパイラル(螺旋)など、一般の飛行機では行わない飛行をすることです。」と説明します。
ここで、映画などで見られる、軍の飛行訓練を想像していただければ助かるのですが、中には「ああ、それは見たことがあるよ。橋の下をくぐったり、結婚式で人々の上を低空飛行したりするんだね?」と、違う方向へ向いてしまうことも多くあります。これらはスタントフライト、またはサーカスフライトであり、日本語の「曲芸飛行」が当てはまります。曲技飛行とはちょっと違うのですが、小うるさく説明するか、相槌を打って軽く流すか悩むところです。それでも、私の日本の家族や親戚から、「え?1人乗りの飛行機なんてあるの?それじゃお客が乗れないじゃない。」とか、「・・・つまり、こういう飛行機に乗っているんでしょう?」と、TVに映ったジェット旅客機を指されたりするよりは話が早いかもしれませんが。
話がはずれましたが、このように曲技飛行と「曲芸飛行」を入れ混ぜて用いられることは多くあり、残念ながらまだまだ我々の努力不足でしょう。私の考える「曲芸飛行」は、先のような橋の下をくぐったり、狭い渓谷の間をすり抜けたり、そして航空祭などでエアショーとして飛行するものが該当し、魅力ある飛行で観客を楽しませるものを指すと考えています。共通するのは観客という対象が存在することです。
対して曲技飛行は、飛行技術の練成を目的に行うものです。安全を第一に、高度は十分に取り、町や集落を避け、万一の事態を想定し、パラシュートを装備して行います。自動車やオートバイで言えば、サーキットなどでの練習会や、走行会が当てはまるのではないでしょうか。こうして、得られた技術を互いに競い合うものが、空の芸術とも称される曲技飛行競技で、自動車レース・・・いえ、フィギュアスケートの競技会が適しているかもしれません。人目のつかないところで行われる曲技飛行よりも、「曲芸飛行」の方が一般の方々の目にする機会が多いのですから、理解不足も仕方のないことでしょう。
前述の全日本曲技飛行競技会は、昨年の2012年10月に行われた技会で第3回を数えました。開催する競技カテゴリーも年々向上し、2009年の試行ではプライマリーのみだったものが、2010年の第1回では難易度を高めたスポーツマンが加わり、2012年からはインターミディエイトを含めた3つの競技カテゴリーが行われました。最近は競技機と競技者も充実してきており、今年度の全日本では、さらにアドバンスドが開催される計画です。曲技飛行競技の理解を求めて、このブログで曲技飛行の紹介、競技ルールの解説などを行いたいと思います。退屈かもしれませんが、少しお付き合いいただけると嬉しいです。
3 件のコメント:
私も高木さんの説明が有るまで、曲技と曲芸の区別が有るなんて知りませんでした。
「技」 と 「芸」。
大きな違いが有るのだけど、、、、、 飛行教官で有っても、抜けてる証拠です。
上田さん
こんなことを言っている私も、なぜFAR(連邦航空法規)で、AcrobatではなくAerobaticsという言葉が採用されているのか、私も知りません。
似たようなところでは、以前、ハッカーとクラッカーの違いも話題になっていました。
私はどちらも同じように考えていました。
意見として、下記の考えはどうでしょうか?
名詞と形容詞の違いと思うんです。Aerobaticに"S"が付くと混乱しますけど、付いていないじゃないですか。
Acrobat Flightって言うと何か不自然ですが、
Acrobatic Flightならスムーズに聞こえます。でも、
Aerobatics Flightはあり得ない、かな?
Acro-とAero-の違いは、
何でも有りのAcro、と
航空に限定したAeroかなと思います。
FARは限定しないとダメだから、Acro-にしたのかなと思ったり。
まあ、言葉と言うのは生き物と思ってます。(徐々に姿を変える事が有る)外国人の思い込みかも知れませんが、どうでしょうか?
日本人は英語の微妙なニュアンスには泣かされますね。それに操縦は英語には関係が無いのが残念。苦労しても変わらん。
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