WAACの話題に上るようになった2年ほど前から、「WAACに出場したい」という相談を受けるようになりました。曲技飛行や曲技飛行競技、そして世界選手権に興味を持ってくれるのはうれしいことです。今回はWAACなどの世界選手権に出場するための承認などについて記述します。
前述のように、エアロバティックスはFAI(国際航空連盟)傘下のCIVA(Commission Internationale de Voltige Aérienne、発音は「シーヴァ」、英語では簡素にFAI Aerobatic Commission)が管理しています。FAIはスカイスポーツを統括する国際機関で、設立は1905年。空を飛ぶことが夢のさらにまた夢だったころ、航空がスポーツとしても発展することが予期されていたのでしょう。エアロバティックスの他には以下のスカイスポーツがFAIに登録されています。
エアロモデリング(R/Cや紙飛行機など模型航空機)
アマチュアビルト・エクスペリメンタル航空機(自作航空機及びエクスペリメンタル航空機)
バルーン(気球)
ドローン(無人航空機)
ジェネラル エイビエイション(GA、一般航空)
グライダー(滑空機)
ハンググライディング
マイクロライト及びパラモーター航空機
パラグライディング
エアロバティックス(曲技飛行)
ロータークラフト(回転翼航空機)
スカイダイビング
スペース(航空宇宙)
国際的な選手権に出場するためにはスポーティングライセンス(Sporting Licence、「Licence」と綴りが異なります)の所持が求められます。このスポーティングライセンスを管理する機関はNational Airsport Control(NAC)で、一般財団法人 日本航空協会(JAA)が担当しています。スポーティングライセンスは公益社団法人 日本航空機操縦士協会(JAPA)が統括団体として管理し、要請を受けたJAAが発行するという形式となっています。
スポーティングライセンスの一例
スポーティングライセンスの発行には以下の条件を満たさなくてはなりせん。
1. 日本国籍を保持していること、または長期に渡り日本に滞在している外国籍の方
2. 曲技飛行の統括団体JAPAの会員であること
3. FAI スポーティングコードを熟知し、遵守できること
さらに、世界選手権に日本代表として参加するには、以下の基準を満たし、JAPA及びJAAの承認を受ける必要があります。
1. JAPAの会員であること
2. 有効なスポーティングライセンスを所持していること
3. 競技に必要な技量レベルを維持し、日本代表として適格であること
4. 競技ルールを熟知し、競技会参加に必要な機材、人材、物資等の調達ができること
5. 公認の記録、又は FAI スポーティングコードに準拠した競技会で、60%以上の公式記録を保持していること
6. 開催地での競技飛行に必要な有効なライセンス等を保持していること
世界選手権に日本代表として参加せず、Hors Concours(自由参加、略してH/Cと表記される)としての参加方法もあります。この場合はJAPA及びJAAによる承認は不要ですが、世界選手権でアンノウンフィギュアの選出で優先順位が下となるなど、いくつか不利な点があります。
以上が世界選手権に参加する条件や基準ですが、特に精査されるのは技量や過去の成績に関する部分です。曲技飛行という本質と、世界選手権という催しでありからでしょう。
では、操縦士資格はなく、曲技飛行も未経験、過去に競技飛行経験がない方が参加する場合はどうでしょうか。「来年のWAACに選手として参加したい。可能性があるならぜひ挑戦したい。」という相談を数人の方から受けました。WAACまで2年を切っていても参加は可能でしょうか。
可能性はあるでしょう。WAACの開催は2023年10月。スポーティングライセンスの発行に2か月かかるとして、成績を遅くとも7月までに満たし、申請を行えば間に合います。ただ可能性を現実とするには、少なくとも以下のような計画で、いくつもの段階を乗り越えることができれば、可能性を初めて可能性と、そして実現させることができます。
2022年
春 自家用操縦士資格取得
夏 曲技飛行訓練、尾輪式飛行機訓練、曲技飛行競技 スポーツマン カテゴリに参加
秋 曲技飛行競技 インターミディエイト カテゴリに参加
冬 曲技飛行訓練 アドバンスト カテゴリの準備
2023年
春 曲技飛行競技 アドバンスト カテゴリに参加
7月 曲技飛行競技 アドバンスト カテゴリに参加し、60%以上の成績を受ける
9月 スポーティングライセンスと参加承認の取得、参加登録
少なくとも毎月2週間を曲技飛行が可能な環境で過ごし、訓練を継続することが必須と考えられます。飛行訓練は天候に左右されますから、予定通り訓練が進むとは限りません。通常の方が5‐6年かける道のりを、1年という期間で進む訳ですから、大変な忙しさとなるはずです。費用($60,000+?)を解決でき、それでも可能性にかけたいというのであれば、ぜひ協力したいと思います。
残念ながら、ここまで説明したところで彼ら質問者からの連絡は途絶えてしまいました。仕方もないことでしょう。それは例えれば、空手の心得もない私が、「来年の空手の世界選手権に出場する」と計画するほどに無謀なことですから。
髙木と遠藤の2人は3月にスポーティングライセンスを取得し、後に日本代表としての参加も認められました。鐘尾みや子さんのご助言とご協力に心から感謝します。
参考
FAI Aerobatic Commission(CIVA) https://www.fai.org/commission/civa
FAI CIVA(詳細な情報はこちら) https://www.civanews.com/
JAPA 公益社団法人 日本航空機操縦士協会 https://www.japa.or.jp/
JAA 一般財団法人 日本航空協会 スポーティングライセンスの申請について https://www.aero.or.jp/sports/request/
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