11月4日(土)、おはようございます。今日は会場からの撤収です。各参加者は出発の準備を始め、業者の方々はテントなどの片付けに入りました。
私と遠藤さんは出発前にフォーメーション フライトをします。Extra 300の前席には晴美さんがご一緒です。
ブリーフィングを行い出発です。
それでは、Team Japan FLT check!
〈動画〉 フォーメーション フライト in ジーン https://youtu.be/96nnXCRj1hU
遠藤さん、晴美さん、お世話になりました。また次回の練習会でお会いしましょう。
さよならジーン。進路を西へとり、8,500 ft MSLで巡航します。キングシティーの日没は18時過ぎ。途中で燃料補給を行い、日没の1時間前にはキングシティーに着陸できそうです。
ベイカーズフィールド市営飛行場(L45)で燃料補給。
同じころ、遠藤さんはサンタ アナのジョン ウェイン空港に着陸しました。お疲れさまでした。
静かな空。
1700時。キングシティーに到着しました。
たくさんの飛行をありがとう。おやすみ、Pitts Special S-2S。
以下は2023 WAACの参加報告です。各所に厳しい記述も含めています。
15th FAI World Advanced Aerobatic Championships 参加報告書
1. 参加選手権
15th FAI World Advanced Aerobatic Championships
第15回FAI世界アドバンスト曲技飛行選手権
2. 開催場所
Jean, Nevada, United States of America
アメリカ合衆国ネバダ州ジーン
3. 主催者
FAI
4. 参加者
髙木 雄一 (たかぎ ゆういち) 選手代表、選手
遠藤 宏泰 (えんどう ひろやす) 選手
5. 参加状況
参加国数 16 当初は17国、ナイジェリア国籍の参加者は選手権中にH/C(国代表でない個人参加)に変更。
参加者数 56 登録者70人、不参加12人、オーストラリア チームの2人がProgram 1後に失格。
6. 成績
髙木 49.704% 35位/56人
遠藤 49.218% 36位/56人
成績はH/C参加の競技者7名を含む。
本選手権の公式成績については、下記のFAI CIVAのウェブサイトを参照。
https://www.civa-results.com/2023/WAAC_23/indexpage.htm
7. 選手権概要
開催場所となったジーン飛行場にはスカイダイビングを提供するFBOがあり、頻繁に離着陸が行われていた。FBOが使用した数機の飛行機と、競技参加機の間では無線交信が徹底して行われ、また競技機の出発を管理するスターターの助言も加わり安全が確保された。飛行場の周囲には商業施設、工場、刑務所、そして閉業したホテルがあるが、住宅地はなく、騒音が問題となる事案は皆無だった。
当初は70人の登録があったが、公式練習には59人が参加した。練習期間中は、経験不足な飛行士による飛行機の乱雑な扱い(始動時の周囲の確認不足、ホットスタートの失敗、ハードランディング、ブレーキの不具合など)を理由にした故障が頻繁に見られた。ある競技者はキャノピーの閉鎖と固定の確認を怠り、離陸時にキャノピーを損失した。該当する飛行機を共同使用していた競技者は、開会式の前日まで練習飛行ができなくなった。その要因となった競技者は参加を取りやめ、参加は58人となった。
練習期間を含め、本選手権は好天の中で行われたが、競技期間中は風速の制限を超えることが幾度かあり、内2日間が全日競技なし、また途中2日間に数時間の競技中断があった。10月4日の開会式の後、競技は10月25日から11月3日までの9日間行われ、全競技者がProgram 1(Free Known)、Program 2(Free Unknown 1)、Program 3(Free Unknown 2)の計3回の競技飛行を終了した。
Program 1には58人の競技者が参加したが、オーストラリアからの2人の競技者は経験と技術不足が露呈し、オーガナイザーから失格と判断された。Program 2以降は56人の競技者で続けられた。
全競技者がProgram 4(Free Unknown 3)までを行うことは日程の関係から難しく、Program 3終了時の上位25人がProgram 4に進むと決定された。競技最終日の11月3日に25人がProgram 4の飛行を完了し、競技成立となった。上の6に記した髙木と遠藤両名の成績は、H/C参加者7名を含めた、総参加者を56人として算出したものである。
本選手権は両名にとって初めての世界選手権参加だが、過去20年に渡り米国内で競技活動を行ってきた実績もあり、結果的に日本代表によるWAAC参加は概ね成功したと言える。9月から始めた練習では、2人が互いの飛行を確認し、助言を与えあいながら行われた。IAC(International Aerobatic Club、米国国内の曲技飛行団体)公認の曲技飛行競技審判である2人は、互いに有益な助言を与えることができたものの、効率的とは言えず、機体の準備と清掃、また整備を含めると長い活動時間が続いた。専属コーチは必須であり、またヘルパーの存在も望ましいと後に認識することになった。
言うまでもなく、飛行機の選定は安全上、また選手権の参加とにも関わる重要な部分である。遠藤は長く使用してきたExtra 300を選択したものの、整備不良を理由に幾度もの練習の中断があった。遠藤はその都度Veloxを借用して練習飛行を続けたが、Extra 300との飛行特性の違いは大きく、Veloxの新たな特性の研究の域に留まることになった。
最終的に両名の順位は総参加者の2/3付近で終了した。練習期間として1か月半を設けたが、両名の潜在能力を伸ばすことはできなかった。それはおそらく、両名の実力を強固なものにしたという程度であったと思われる。しかし、両名が孤軍奮闘の環境にありながらも、大きな失敗もなく、現時点での実力を十分に発揮できたことは大きく評価できる。
曲技飛行競技では、公正な、公平な判定が全競技者に対して与えられるべきものであるが、それらが徹底されていたとは言い難い事案も見られた。競技者の中には高高度制限を超え、最高で4,000 ftを大きく超えて飛行した者もいたが、適切な減点(距離、位置、高度、そして太陽や雲の存在などを理由として、競技機の目視が難しい状況では、2点の減点が自動的に行われる)はなかった。周囲の標高差が原因で、特に北と南の方向での水平飛行に難があり、上昇または下降した競技者がいたにも関わらず、判定に明確な影響は与えられなかった。特に、これらの判定は著名な競技者かどうかで判定が分かれた場面が多くあった。
選手権後も多くの課題を残したことの一つに、スナップロールの判定基準がある。練習期間中から、複数の競技者は明らかに疑似的なスナップロールを行っており、少なくとも我々は彼らの飛行が低い評価となるだろうと予想した。スナップロールはエルロンロールと比較して、開始から停止までの難易度が一般的に高い。スナップロールの精確な停止を求めてのことだろうが、スナップロールを途中からエルロンロールに変化させ、疑似的なスナップロールを行った競技者は多く存在した。
しかし、未熟なジャッジは、高性能な、最新の曲技飛行機が見せる速いロールレートに惑わされ、疑似的なスナップロールを見抜くことができなかった。また、ある審判はスナップロールの判定基準を独自に解釈し、「速いロールレートこそがスナップロールの所以である」と公言する者までいたほどである。このスナップロールの件に限らず、彼らジャッジを管理できなかったチーフジャッジの裁量もまた疑問であった。
競技飛行を録画記録することは世界選手権で長く行われてきた。疑問となった箇所の確認に便利であるが、画面から精度まで判定することは不可能である。遠藤のProgram 2の飛行において、審判の1人があるフィギュアの動画判定を要求した。大多数の審判は点数を与えたフィギュアだったが、動画判定で角度の逸脱を指摘され、HZ(Hard Zeroの意。規定の飛行を行わなかった、誤った飛行をした、または角度の逸脱が制限を超えたなどを理由として、該当する課目を無得点とすること)と判定が覆された。前述のように、動画から精度の判定は困難である。動画判定は事実の確認、例えば行ったかどうかの確認のみに留め、精度の判定にまで広げるべきではない。
この件では、遠藤のProgram 2中にボックス内に侵入した機体があり、平静を欠いたことも不幸な事だった。エアボスと侵入機、そしてエアボスと遠藤の間で適切な無線交信がなく、遠藤は状況に疑問を持ちながら競技を続けることになった。公平な競技飛行の機会を求めて、ジュリーに再飛行を要求したが、プロテストは却下された。プロテストの表現や指摘に工夫があるべきだったと、後に反省することになる。
これらの苦言は我々両名の判定や成績を相対的に上げることを期待するものではない。競技スポーツとして、公正な、公平な判定は全競技者に対して与えられるべきものである。鐘尾みや子氏が過去の約20年間、CIVA(FAI Aerobatic Commission)の国際会議に、日本代表として出席し、積極的に発言してきたように、今後も国際会議に日本の代表者が参加し、発言を続けていくことを期待したい。
8. 今後の展望
今回選手として世界選手権に参加して、世界の壁を知ることができたことは一番の収穫だった。上位競技者と我々の実力差と、国を挙げて競技者を育成するシステムを持つ国々と、日本との航空文化の差を目の当たりにした。
例えば、ルーマニアは過去10年の間に世界選手権の強豪国になった。同国では国家事業として曲技飛行に力を入れており、曲技飛行専用に飛行場を整備し、格納庫を新設、曲技飛行機を複数機導入し、飛行訓練費用を国が全額負担している。航空機を世界各国に輸出するブラジルは、曲技飛行の強豪国として、世界選手権での地位を示しつつある。航空文化は航空産業に影響を与え、将来的に国力となって現れる。航空文化は航空産業を語る上で、また日本という国の発展を思えば欠かせないものである。
両名のWAACに参加した動機は、開催地が米国内という点がまずあった。現在、髙木は米国西海岸に居住し、自身が所有するPitts Special S-2Sで曲技飛行選手権やエアショーに参加してしる。遠藤は日本国内に在住しながら、2000年から米国で曲技飛行を始め、その後曲技飛行選手権や地方競技会に参加しており、長年飛行してきたExtra 300での参加を希望した。これらと同等の性能を有する同機種の飛行機を他国で用意することは難しく、つまり米国内での世界選手権開催に限られることになった。
WACとWAACは交互に2年毎に世界各地で開催されている。また過去20年の間、米国で開催された世界選手権は、2003年のWAC、2008年のWAAC、2013年のWACがある。これによれば、米国でのWAACは2033年以降、WACは数年後の近い将来に行われると予想される。我々両名による世界選手権への次回参加は不明だが、今回の選手権で得られた経験を基に、研究を続け、技量を磨き、来る将来に備えたい。
CIVAの窓口としては現在JAPAが世界選手権への選手推薦業務などを行っているが、曲技飛行に直接関連する団体が存在しない国は、CIVA参加国中では現在日本のみである。アメリカ合衆国はInternational Aerobatic Club、ブラジルはBrazilian Aerobatic Association、イギリスはBritish Aerobatic Associationと、各国には専門の団体が存在する。日本でも、曲技飛行関連の情報提供や啓蒙活動、競技者や愛好家、ファンの間での交流などを目的として、日本曲技飛行クラブ(英語表記はJapan Sport Aerobatic Club)の名称で任意団体を設立する準備を進めている。
髙木雄一と遠藤宏泰が第15回 WAACに日本代表選手として参加できたのは、JAA及びJAPAの関係者の皆さまのご尽力と、JSACの皆さまの応援によるものです。この文面をおかりして、心からお礼を申し上げます。
15th FAI World Advanced Aerobatic Championships 日本代表選手団 代表 髙木 雄一
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