2013年2月3日日曜日

Low Oil Pressure


Engine始動後のOil Pressure(油圧)が異常に低いという問題が発生しました。

Lycoming Engineの、Idle SpeedでのMinimum Oil Pressure(最低滑油圧力)は25PSI。
実際には、500-600RPMもあれば、Oil Pressureは70-80PSI程度の値は十分に得られますから、この最低値を示すということはまずありません。

ところが、今回のIdle SpeedでのOil Pressureは33-37PSI。
1000RPMまで増速しても改善せず、いつもの半分以下です。
何がおきてしまったのでしょうか。

Oil Pressureが上がらない原因はどんなものがあるのでしょうか。

1. Engine OilのGradeを誤り、粘度が低い製品を使用している。 → 使用しているEngine OilはAeroshell W100、間違いはない。

2. Engine Oilの温度が高く、粘度が下がった。 → Engineの予熱は行ったが、Oil Tempはまだ約80度F。むしろ低い範囲。

3. Engine Oilの量が不足している。 → 飛行前点検で十分な量のEngine Oilがあることを確認している。

4. Oil Pumpの故障。Gear Pumpの歯が欠けた、または軸が折れた。

5. 異物が入り、Engine Oilの流れを塞いでいる。

6. Oil Pressure Gauge(油圧計)の故障。

7. Gravity Oil Valve(重力式油圧弁、背面飛行用の装備)の動きが妨げられ、Breather Lineから空気を吸っている。

8. Oil Pressure Relief Valve(圧力調整弁)が閉じられていない。またはInternal Leak(内部漏れ)を起こしている。

 
Lycoming AEIO-540-EXPの上部。
写真中央の銀色の筒状の部品がOil Pressure Relief Valveです。

可能性が高いのは4、5、6、7、8でしょう。
では、Oil Lineの流れに沿って、簡素なところからTrouble Shootingです。
Engine内部の構造破壊など、重大な問題ではないことを祈って。

まず、Engine Oilを抜き、磁石を使って流れ出るEngine Oil内の鉄分を検出します。
結果は正常、鉄分はわずかにもありません。
これで、Oil Pumpの故障という可能性はほぼ消えました。

続いて、Oil PanからOil Pumpまでの間にあるSuction Screen。
異物はなく、正常です。
これが大丈夫ということは、Suction ScreenからOil Pumpまでの間の詰まりも有り得ません。
Oil Pump出口にあるHigh Pressure Screenが詰まっているという可能性も、まずないでしょう。

では、Oil Pressure Gaugeの故障でしょうか?
圧縮空気を用いて90PSIまで確認しましたが、誤差は1PSI程度です。
むしろ正確さに感心しました。

すると、Gravity Oil Valveが思い当たります。
数年前の緊急着陸でも、これが原因の一つでした。
しかし、内部は確実な作動が見られ、ここも問題はありません。

やはり気のせいだったのだろうかと、再び試運転。
しかしOil Pressureは35-37PSI程度で、それ以上の上昇はありません。
ここで気付いたことは、回転数を変化させても、Oil Pressureはその値を保っていることです。
つまり、Oil Pressure Relief Valveは正常に作動している。
ただ、その値が異常なほど低いというだけで。

ということは、Oil Pressure Relief Valveの調整がずれてしまっているでしょうか。
まず最初に、Valve ScrewをRubber Hammerで叩いてみますが、変化はなし。
あまり気が進みませんが、試しに調整ネジを1回転締め、Oil Pressureを上昇させてみます。
しかし、逆にOil Pressureはわずかに下がってしまいました。
どうやらValveのSeatingに問題があるようです。

Oil Pressure Relief Valveには、Springとパチンコ球のような金属球が入っています。
見ると、球は灰色にくすんだように汚れています。
まさかこれが原因ではないだろうと思いつつ、可能な限りきれいに清掃し、再度Engine Start。


Oil Pressure 82PSI!

どうやら、金属球の汚れが原因だったようです。
次回、同じような問題があったら、最も簡単に調べられるところとして、Oil Pressure Relief Valveを調べようと思います。
いい勉強になりました。


よい機会ですから、以前から気になっていたIdle Mixtureの調整も行いました。
混合気がかなり濃い状態(200RPM上昇)でしたので、50RPM上昇まで薄めます。
Idle Mixtureは回転数の加速性能に影響しますから、規定の25RPMよりも少し濃い設定に。
これでSpin Recoveryからも安定した加速運転が可能です。


Oil Pressure関連となるとつい不安になってしまいますが、大事でなくて一安心です。
いろいろ行って1日がかりでした。
お疲れさま。

4 件のコメント:

CFI-JAPAN さんのコメント...

パチンコ玉ですか。フイルム状の汚れが原因で、オイル圧が逃げてしまうなんて。 微妙な世界と言うか、高圧な世界なのか。 学校で勉強はしましたが、実際のフィールド経験が余り無いので、読んでるだけでも良い勉強になりますね。

それにCFIです。 説明が上手いですね。

Yuichi Takagi さんのコメント...

CFI-Japanさん
確かに金属球は薄く汚れていましたが、実際にはどうなのでしょう?
ひょっとすると、小さな異物を噛んでいて、外したときにそれが取れたのかもしれません。
どちらにしても、次はここを最初に見てみようと思います。

CFI-JAPAN さんのコメント...

1ミリ以下の小さい物がエンジン全体の安全性に悪影響を与える…異物を噛んだにせよ、極小の異物がと考えると凄い影響力ですね。

今回は飛行機エンジンのトラブルシューティング。その行程が手に取る様に分って為になりました。

他の世界でも「切り分け」がキーワードです。SEの仕事でネットワーク構築関連をしていた事も有るのですが、その仕事に似てるなと思いました。問題端末から故障の原因を消去していて、最後に問題に到達した時はちょっと快感。

Yuichi Takagi さんのコメント...

CFI-Japanさん
Low Oil PressureならまずRegulatorが問題ということは常識ですから、ここの解決だけなら1時間もかからずに完了したと思います。

では、その原因は何かと考えると、異物の混入が上げられますから、その由来を見つけなくてはいけません。
時間がかかりましたが、Engine部品とOil Lineに問題がないことが判ってよかったです。